第八話 一瞬の油断
[2/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
タイミングを逃してしまう。その間に初霜は歩みを止めることなく、だんだんと食堂の扉に近づいていった。
「凰香、あなたがいいなら力ずくで止めるわよ」
防空棲姫がそう言ってくる。凰香は初霜に気づかれないようにするために、頭の中で言った。
「(だめ。今ここで彼女に何かしたら私達の立場が余計に悪くなる)」
凰香がそう言っている間に、ついに食堂の扉の前にたどり着いてしまった。
扉の前に立った初霜は凰香の手を握ったまま、躊躇することなく食堂の扉を開けた。その瞬間食堂の中にいた艦娘達が一斉にこちらの方に視線が一気に集まる。その視線には友好的なものは一切存在せず、殺気のようなものまで感じられた。
この状況はさすがに分が悪く、時雨達も手を出すことができない。そのため、凰香自身がこの状況から抜け出さなければならない。
しかし凰香が初霜の手を振り解こうと試す度に『偶然机の脚や椅子に引っかかって』タイミングを逃してしまい、初霜に連れられてしまう。
厨房に向かう道中数多の艦娘の横を通ったが、予想通り凰香達の登場によって表情を曇らせている者がほとんどだ。中には凰香達の姿を見た瞬間、食べるスピードを速める者もいる。どうやらとことん『人間』を嫌っているようだ。
そんな艦娘達の反応を見ているにもかかわらず、初霜は気にすることなく厨房に声をかけた。
「間宮さん、ご飯をお願いします」
初霜がそう言うと、それに答えるかのように厨房の奥からトレイを持った間宮がやれやれといった表情で出てきた。
しかし凰香の姿を見た瞬間、憤怒に満ちた表情へと変わった。
「提督!!貴女は本当にーーーー」
「間宮さん、何を怒っているのですか?」
間宮が厨房と食堂を繋ぐ机に身を乗り出さんばかりに凰香に詰め寄ろうとした時、隣にいた初霜が首を傾げて聞いてきた。その瞬間間宮の動きが止まり、表情が歪む。
おそらく、というより間違いなく間宮は凰香が無断で放り込んだ食材や調理器具に気がついて問い詰めようとした。しかし初霜がいる手前、分が悪いと判断したのだろう。
「………次からは自分の部屋に入れることにします」
凰香は間宮に何か言われる前にそう言った。これなら凰香達と間宮以外は事情を察することができないから大丈夫だろう。
凰香がそう言うと間宮が息を呑み、次にうなるような声をあげる。
「……以後、気をつけてください」
しばらくの間続いたうなり声が小さくなり、やがて間宮が何か諦めたような声でそう言ってきた。その表情は『甚だ遺憾である』といった感じである。
「あと皆さんが帰った後で厨房を貸してくれませんか?」
凰香は間宮にそう言った。理由は簡単、凰香達が食べるご飯を作るためである。
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ