魔術の国の異邦人 2
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がなにか」
「もってきてくれ」
「あなたに指図される謂れはなくってよ」
「いいから早く!」
「わ。わかりましたわ。しょうがないですわね……」
妙な迫力に負けてミーアに新聞をもってこさせる。
新聞にはかつて高い税金がかけられており、富裕層にしか読まれないものだったが、今世紀に税金が廃止されたことと印刷機の発達によって低価格で手に入るようになり、大衆新聞も広がった。
ミーアがもってきたのも使用人たちが読んでいる大衆紙だ。
『オルザーノ〜フェジテ間の鉄道整備。実用化はまだ先か』『シーホーク、堤防の老朽化問題』『サイネリア島リゾート開発進む』
英字に酷似した文字でそのような記事が書かれているのが、秋芳にはなぜか読めた。そしてウェンディの言ったとおり記載された日付は西暦でも平成でもない、聖歴というのが使われている。
「まさか、そんな、タイムスリップどころか異世界じゃないか……パラレルワールド――十一次元――超弦理論――ユークリッド空間――いいや、カラビヤウ多様体とM理論が――ぶつぶつぶつぶつ――」
「は? なんですの?」
「永遠に循環する円環が存在し、もう一方には不可逆的一方的な時間の直線があり――前者をインド・ギリシア型時間といい時間に対する空間の優位を――直線的時間の概念はユダヤ・キリスト型時間とする――インド・ギリシア型時間概念は多神教に通じ、ユダヤ・キリスト型のそれは一神教に通じ――循環的時間の概念を――ぶつぶつぶつぶつ」
「お嬢様、この人はどなたですか? なんだか現実逃避しちゃってるみたいですけどぉ」
「……そっとしておきましょう、なにやら惑乱なさっているみたいですし」
こちらの声は届きそうにない。時間を空けて、夜にでも様子を見に来ましょう。ウェンディはそう判断して地下室を後にした。
「『異次元騎士カズマ』って言葉が通じないから最初必死になって言語をおぼえたんだよな。その点俺は言葉の壁がないぞ、わーいわーい。異世界ものの元祖ってなんだろう? 高千穂遙の『異世界の勇士』か? いや、『異境備忘録』とか平田篤胤の『仙境異聞』なんてのもあったな。あれは今でいうラノベなのかな。『幻夢戦記レダ』って菊地秀行がノベライズしてたんだよなぁ。バローズの火星シリーズとか、『発狂した宇宙』とか『アーサー王宮廷のヤンキー』とか、異世界ものは古今東西枚挙にいとまがない、ひとつのジャンルともいえるのだから、飽きたとかいうやつは無理に読まず素直に別の作品を読めばいい。あ、そういえば『天空戦記シュラト』の小説版て完結してないよな――」
あとに残された秋芳はうつろな目をしてぶつぶつと独り言をつぶやいていた。
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