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ルヴァフォース・エトランゼ 魔術の国の異邦人
魔術の国の異邦人 1
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でもない場所(ネバー・ランド)』のひとつ『魔界』に住むとされる。

「おだまりなさい。それよりもミーア、これからわたくしの言う物をそろえて地下室に運んでちょうだい。……安心なさい、呼び出すのは一番低級のものにしておきますわ。【ショック・ボルト】の一節詠唱もできないおバカさん相手には、その程度でじゅうぶんですわ」
「ううう……」

 お嬢様の命令には逆らえない。ミーアは観念してウェンディの言葉に従った。





 ワイン製造で財を成したナーブレス公爵家のフェジテ邸は広大だ。
 民家の敷地並の広さのある地下室の床に召喚用の魔方陣を描いたウェンディはミーアの用意した供物を確認し終えると、剣を手にして呪文を唱えた。

「アタル・バタル・ノーテ・ヨラム・アセイ・セメタイ・プレガス・ペネメ・フルオラ・ヘアン・アラルナ・アビラ・アエルナ・アイラ。五の目、天宮、双魚の四角。われ汝に乞い願う。天と地とすべての物を創りたまいし大いなる救世主の名において、汝がわれを煩わせず傷つけず即刻あらわれ、わが命令に応えんことを。アギオス並びにイスキロス、エジェルアセルの名において、われここに乞い願う。エロヒムよ、エサイムよ、わが呼び声を聞け」

 特定の、名のある悪魔を召喚・使役するような魔術ではなく、汎用の召喚呪文だ。それももっとも低レベルな、翼の生えた猫や大ヒキガエルといった悪魔のなかでも最下層に位置する雑多な存在を召喚するよう術式を調整してある。
 たとえ制御に失敗して魔方陣の外へ出られたとしても、アルザーノ帝国魔術学院2学年次2組でも一二を争う実力者である自分なら対処できる。
 ウェンディはそう信じていた。

「エロイムエッサイム、エロイムエッサイム、エロイムエッサイム!」

 魔方陣内の空間が異音を立てて歪み、なにものかが現れる。

(え、人間? 男の人……?)

 硫黄の臭いとともに醜い怪物が現れると思い込んでいたウェンディの前に出現したのはひとりの青年だった。
 東方の武闘僧のように剃りあげた頭、身にまとった黒衣の士官服のような服はどこか鴉を思わせる。
年齢はウェンディとおなじか、少し年上に見えた。

(ううん、見た目に惑わされたりなんて、しませんことよ!)

 悪魔が召喚者を油断させるよう、美男美女の姿を装って顕現する。そのような話はよく聞く。

「悪魔よ、まずわたしを傷つけないと誓いなさい!」
「……ヘソ」
「なんですって?」
「その服、ヘソが丸見えなんだが……」
「お、おヘソは関係ありませんわっ!」

 思わず両手でガード。

「いや、隠すくらいならそんな服着るなよ……」

それが、ウェンディ=ナーブレスと賀茂秋芳との最初のやり取りであった。
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