魔術の国の異邦人 1
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魔術と科学が共に発展した世界、ルヴァフォース。
魔導大国であるアルザーノ帝国の南部、ヨクシャー地方の都市フェジテ。
この街にあるアルザーノ帝国魔術学院は、この世界で最先端の魔術を学べる最高峰の学び舎。
およそ四〇〇年の歴史を有するこの学院は魔術の道を志す全ての者の憧れであり、学院の講師や学生たちも自身がその学徒であることに誇りを抱いている。
この由緒正しき学院に突如として赴任して来た非常勤講師、グレン=レーダス。彼ひとりを除いて。
華やかな紋様が描かれた絨毯、壁には銀の燭台、よく磨かれた樫の椅子や机など、高価で華やかな調度品の数々が置かれている。
そんな、いかにも上流階級の人の住まいと思われる屋敷に少女の怒号が響く。
「あのロクでなし講師! もう我慢の限界ですわッ!」
ツインテールを振り乱し、ウェンディ=ナーブレスが怒りもあらわに分厚い本を机に叩きつけるように置いた。
「ひゃあッ!」
そのあまりの剣幕にお付きのメイドが小さな悲鳴をあげて首をすくめる。
「授業初日から遅刻、自習。すぐに居眠り。やっとまともに教壇に立ったと思ったら教科書を黒板に釘打ちして『勝手に見ろ』ですって!? 書物をあのようにあつかうだなんて、魔術師の風上にも置けませんわ。非常識にも程がありますっ! システィーナもシスティーナですわよ。せっかく辞表を書かせる好機でしたのに『本当に講師を辞めたいなら意味がない』ですって。理解に苦しみますわ」
「…………」
かわいらしい丸眼鏡が良く似合う、ウェンディお付きのメイド。ミーアは亀のように首をすくめたまま怒りの荒らしが静まるのを黙って待った。下手に口を出してとばっちりを受けてはたまらない。
最近講師になったグレン=レーダスについての悪評はミーアの耳にも入っている。というかウェンディの口から散々聞かされている。
教科書の内容を黒板に丸写しして居眠り。やがてチョークで書き写すのも面倒になって、教科書をちぎって黒板に貼りつける。果てはそれすらもおっくうになったのか、黒板に教科書を釘で直接打ちつけるという暴挙に出たところでクラスのまとめ役であるフィーベル家の令嬢システィーナに決闘を申し込まれた。
結果はグレンの惨敗、システィーナの圧勝であったのだが、退職するという言質を取らなかったのでグレンはいまだやる気のない、のんべんだらりとした授業を続けている。
「わたくしがおなじ方法で辞めさせることもできますけど……」
クラスのリーダー的存在であるシスティーナが不承不承とはいえ結果を受け入れている以上、これ以上騒ぎ立てるのは気が引けた。勝敗の見えている決闘なぞ白けるだけだし、なによりも二番煎じというのがウェンディには気に入らない。
「いっそのこと、暗
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