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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
まぼろしの城 1
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 治承・寿永の乱。
 平安時代末期の治承四年(1180年)から元暦二年(1185年)にかけて起きた、俗に源平合戦と呼ばれるこの内乱は、壇ノ浦で終焉する。

 平知盛をはじめ、平氏のおもだった武将らは海へと身を投じ。安徳天皇もまた三種の神器とともに入水した。

「もののあわれよのう」
 その合戦の一部始終を高台から見ていた者がいる。
 伸び放題の白い髪に伸び放題の白いひげ。ぼろぼろの水干を身にまとい、血のように赤い紗の眼罩(ヴェール)で顔を覆った老人だ。
 水島の戦いの勝利で一時は勢力を盛り返した平氏だったが、結局は敗れた。

「陰陽寮も、立場が悪くなろう」

 平氏の擁立する安徳天皇に従った陰陽寮。陰陽師たちは、その天文の知識でもって日食が起こるのを予測し、それを平氏に伝え、平氏はこれを合戦に役立てた。
 日食の起こる時期、その原因を知らない源氏の兵らは、戦の最中に起きた突然の暗闇。日食に恐怖し、逃走した。これが水島の戦いでの平氏の勝因の一つとされる。
 それでも、大局は変えられなかった。
 陰陽師は、戦いに負けたのだ。

「貴族の世は終わり、これからは武士の世となろう。京の都もどうなることやら、……晴明よ、おぬしなら今の世を、これから迎える新たな世をどう思うのであろうな……」

 先ほどから独りごちる老人の声は妙に高く、若々しい。

「そこでなにをしている!」

 太刀を佩いだ武士の一団が老人を誰何し、取り囲む。
 返り血なのか自身の血なのか、みな全身を赤く染め、殺気立っている。

「こたえよ」
「なに、平氏の世の終わりを憐れんでおったのよ」
「おのれは平氏にくみする者か?」
「くみせぬ」
「源氏にくみする者か?」
「くみせぬ」
「ならば去ね、邪魔じゃ」
「いやじゃ」
「なに!?」
「儂はいま少しここにおる。ぬしらが去ったら波の下に消えた者ら、弔ってやらねば」
「おのれは僧か?」
「いいや」
「神官か?」
「いいや」
「では何者か?」
「陰陽師」
「うぬ、やはりおのれは平氏方の者か!」

 武士たちが太刀を抜き老人に襲いかかろうとする。と、老人がなにごとか口の中で呪を唱える。
 すると武士たちと老人との間に出現したものがあった。
 それは右手に槍を、左手に宝塔を持ち、戦装束に身を包んだ毘沙門天であった。
 その身の丈は九尺。およそ二メートル七十センチ。
 武士たちは驚きの声をあげて後方に跳びすさる。一瞬ひるんだがしかし。

「毘沙門天がかような陰陽師のために姿を現すはずなどあるか」
「陰陽師のまやかしぞ」
「仏神をもてあそぶとはゆるさぬ」

 かえって武士たちの怒りを焚きつけてしまったようで、いきりたった一人が老人の脳天目がけて太刀を振り下ろした。

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