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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
闇寺
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人いたかしら阿闍梨かしら見られたまだ若いお客さん新しい人どうしよう見られたいじめられるかも良い人悪い人どうしよう見られた――。
 混乱した頭で目まぐるしく思考をめぐらせた末、秋乃は――。
 逃げた。
 速い。脱兎のごとく駆けて、その場を離れる。
 木々をぬって疾走する秋乃。足の速さだけは自信がある。

「なぜ逃げる?」
「きゃーっ!」

 それゆえすぐ後ろから声を、走っている自分に追いついて声をかけてくる人がいるとは思いもしなかった。

「おい、なぜ逃げるんだ?」
「あ、あなたが追いかけてくるからです!」
「なにを言う。おまえが逃げたから追いかけてるんだ」
「え? あ、そうかも」
「わかったら止まれ。そんなに走るとあぶないぞ」
「わ、わかりました」

 少女は素直に足を止め、後ろを振り返る。
 坊主頭の、僧侶のように頭を剃りあげた青年が立っていた。
 秋乃のことをじっと見つめている。

「え、えっと……」

 初対面の相手だ。緊張のため秋乃のウサミミはあたふたと右に左に向きを変えて内心の同様をあらわす。

「さっきは、すまない。おどろかせたみたいだな」
「い、いえ。こちらこそきなり逃げてごめんなさい」
「その耳から察するに、君はウサギの生成りか。宴会には来なかったようだが、ああいう騒がしいのはきらいなのか?」
「あ、はい。わたし、あんまりうるさいのは苦手なんです。あの…、あなたは外から来た『お客さん』ですか? 宴会を開いた」

 おどおどと探るような上目づかいで訊ねる。

「……ああ、そういうことになるな。俺の名は賀茂秋芳だ」
「あ、えっと……。わたしは秋乃っていいます」

 寺では名前しか使わない。たしか名字があったはずだが、秋乃はそれを思い出せず、名前のみを名乗った。秋芳のほうも特に名字を聞こうとはしない。
 この寺に居る者、来る者は様々な事情をかかえている。俗世の縁を捨てて闇寺に入る者も大勢いる。あえて姓を捨てることもあるだろう。
 過去をたずねるのは闇寺ではタブーだ。

「さっき芋を焼こうとしていただろう? 腹が減っているようだが」
「は、はい。薬食……、夕ご飯まで時間があるから、いつもお腹がすくんです……」

 寺では夕食のことを薬食と呼ぶ。これは寺の食事は朝昼二食だからで、夕食は食事ではなく薬という考えからきている。

「残り物しかないが、今から来るか?」
「え? ええっ!? わたしなんかがそんな、めっそうもないです!」
「…………」

 黙って秋乃の顔を見つめる秋芳。
 あ、しまった。気を悪くしてしまっただろうか。言ってから秋乃はお客さんの誘いを断ってしまったことを後悔した。
 だが秋芳は全然別のことを考えていた。

(ううむ、けしからん!
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