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逆さの砂時計
Side Story
少女怪盗と仮面の神父 49
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のなら、もう良いよって。もう苦しまなくて良いよって。そう言ってあげたいと……思ったの」


『死にかけてたハウィスを生かす為、私が手札を失くさない為に』


(エルーラン王子は……ハウィスを一目見て、全部解ったんだ)

 彼女は失望し、絶望していた。
 他者を虐げる傲慢で強欲な人間にも、それを黙って受け入れる人間にも、争いをくり返す世界にも、誰かに生かされるばかりの無力な自分自身にも。

 哀しみや苦しみすら、とっくに通り越して。
 可視も不可視も関係なく、傷や喪失にはもう、耐え切れなくて。
 彼女の精神は無自覚なまま壊れ、砕け散る寸前にまで追い込まれていた。

「ハウィス……」
「……でもあの時、貴女は生きたいと願った。どんなに辛くて悲しくても、この世界(げんじつ)で、誰かと一緒に笑いながら生きていたいんだと訴えた」

 驚いたわよ?
 私よりもずっと幼い女の子が、満身創痍になっているのに。
 自分を切り捨てた社会を、それでもまだ諦めてなかったんですもの。
 自死を選んでもおかしくないほど酷い目に遭ってなお人の子でありたいと泣き叫ぶ貴女を手に掛けるなんて、私にはできなかった。
 失っていた色彩が貴女から広がっていく……目が覚める感覚だったわ。
 この小さな命が、この世界に在り続けたいと望むなら。
 私が全力で護ろう。全力で生かしてあげよう。
 それが私の存在理由なんだ、とさえ思った。

「アルフィンの手はさっさと離したくせに、ずいぶんな身勝手ぶりよね」

 泣きそうな顔で微笑むハウィスに、ミートリッテは何も答えられない。
 アルフィンから離れた件で彼女に物を言えるのは、ブルーローズの行いが原因で生まれてきた被害者(アルフィン)本人か。
 もしくは、アルフィンの世話をハウィスに託したグレンデル夫妻だけだ。
 ブルーローズと同じ立場のシャムロックには、同情も非難も許されない。

 押し黙る娘の横顔をじっと窺っていたハウィスも。
 一息吐いた後、再び目蓋を伏せて語り出した。




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