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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
憑獣街 2
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 獣の牙が京子の白い喉に迫る。

「禁顎則不能噛、疾く!」

 顎を禁ずれば、すなわち噛むことあたわず。
 肉を裂こうとした牙はしかし、噛み合うことなく空振りし、二人の横を首が素通りする。
 今の術は!
 京子の顔に喜色が浮かび、声の主を探す。

「身命泰安、辟邪破魔。急急如律令!」

 と、さらに呪文が唱えられ、それと共になにかが周囲にパラパラとばら撒かれる。もち米だ。神聖な気が満ち、それに触れた獣首の群れは、爆ぜたように吹き飛んだ。
 それに恐れをなしたのか、他の首らも火を恐れて逃げ出す獣のように退散する。

「おお! さすが触媒を使った術はすこぶる強力だな」  

 僧侶のように頭を剃りあげた短身痩躯の青年が姿を見せる。京子が予想したとおり、賀茂秋芳だった。

「秋芳君! ありがとう、助かったわ。……でも、どうしたの、こんな所で?」 
「ちょいと呪具の買い足しついでに笑狸のパシリにされてね」

 笑狸。秋芳の式神の化け狸だ。

「笑狸ちゃんのお使い? やだ、もう。どっちが式神なのよ」

 そういえば秋芳が手にしている青いビニール袋には見覚えがある。あれはついさっき京子も利用した店のものと同じでは――。

「まぁそんなことよりも『こんな所で?』はこっちの科白だ。なんでこんな場所であんなモノに襲われてたんだ?」
「ええと…」
「あなた、たしかきのう京子ちゃんと一緒にいた人よね?」
「うん? 君は……、ひょっとして……、木ノ下先輩?」
 
 一瞬。いや、数瞬ほど、誰だかわからず返答に間が開いた。

(きのうはいかにも可愛い系だったが、あれは化粧のせいか。すっぴんだとハンサム系美人な貌じゃないか。ううむ化粧ひとつでこんなに変わるとは、まさに化生。化粧とは乙種呪術だな)
「よしてよ『先輩』だなんて。だってあなた私より年上でしょ?」
「え、そうなの? 秋芳君、たしか十七歳て言ってたわよね?」 
「お、おう。いかにも、じゅうななさいだ」

 田村ゆかりよりも十三コ下の、井上喜久子さんよりも××コ下の十七歳だ。
 秋芳の物言いがおかしかったのか、張りつめていた純の表情が緩む。
 その瞬間――。

 ぐぅぅぅ〜。

 空腹をうったえる音が、純のお腹から鳴り響く。

「…………」
「…………」

 純の顔が見る見る赤くなる。

「……なにか、食べるか?」
 純はコクリとうなずいた。

 焼き肉屋に入った純は猛烈な食欲を見せた。
 きのう、あれからなにも食べてないというのだから無理はない。
 最初はそう思った秋芳と京子だったが、カルビ、タン、ハラミ、ホルモン、ハツ、シビレ、ミノ……。
 肉、肉、肉。ひたすら肉だけを平らげる純の姿に声を失った。

「き、木ノ
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