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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
憑獣街 1
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 ケンカなんて相手の顔面をぶん殴ればそれだけでけりがつく。顔は鍛えようがないし、普通の人間は鼻が潰されたり歯を折られれば、それだけで戦意を失くす。
 人の上手な殴り方を一つおぼえれば、百の技など修得する必要はないのだ。
 そういう意味ではボクシングというのは実に洗練されたケンカ技術といえる。
 悪い例え方かも知れないし、見当違いな考えなのかも知れないが、陰陽塾の教えには、そのような理屈に通じるものがあると思う秋芳だ。

閑話休題。

「じゃあ呪力を込めて投げて、的に上手くあてるコツは?」
「集中あるのみ。いまさら君に教えることなんてないよ、じゅうぶん上手に投げてるじゃないか」

 京子は幼い頃から塾長を始め、プロの陰陽師たちから日常的に呪術の手ほどきを受けて育った、いわば陰陽師のサラブレッドなのだ。

「そう…。ねぇ、じゃあどっちが多くあてられるか、勝負しましょう。制限時間は五分ね」

 そう言って壁にある時計を指さす。

「よし、わかった」

 おたがいに手持ちの符を構えて周囲を見渡すと、秋芳の視界に夏目の姿が映る。

(そういえば笑狸が気になることを言っていたな)

 きのうのデートの帰りの時だ。夏目の体から女の子の匂いがする、と――。
 化け狸の嗅覚は鋭い。その鋭敏な鼻をして、夏目は男のにおいの時と女のにおいの時がある。そう言っていたのだ。
 不思議なことにそう言われると夏目という人物が女子に思えるようになった。
 いや、女の子にしか見えない。
 華奢な身体に艶やかな黒髪と桜色の唇。白皙の美貌やどこか高く柔らかな声といい、あれで男子というのは無理がある。
 あまりにも無理がある。
 なぜ今まで疑問に感じなかったのか?

(奇妙な話だ。どれ、少々強めに見鬼()て、気を探ってみるか)

 男性は陽の、女性は陰の気をおびている。見鬼により男女を見分けることが可能だ。
 京子との呪符投げ勝負を続けつつ、片目をつむり見鬼を凝らす。ちなみに呪禁術においては目をもちいる呪を総称して営目と呼ぶ。
 見ることは見られること。
 視線を感じる。という言葉があるが、それはまさに相手を意識して見ることで、こちらの気も視線を通じて向こうに伝わってしまっているのだ。
 呪術になじみのない一般人でもそのような経験はあるはずだ。まして呪術の心得のある者の気を気づかれず探るというのは、なかなか難しい。
 穏形して視る。あるいは今のような場の喧騒にまぎれて視れば気づかれにくいと判断し、改めて見鬼たわけだが――。

(陰の、それもずいぶんと大きな気に包まれているが……、竜か! 竜の護法式とは、さすが土御門。豪勢だなぁ。…う〜ん、こうして見ると夏目自身も陰の気を帯びた女にしか見えないのだが、奇妙なことだ)

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