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東京レイヴンズ 異符録 俺の京子がメインヒロイン!
憑獣街 1
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に、なにかが入った瞬間だった。

 ぜー ぜー ひゅー ぜー ぜー ひゅー

 獣の気配が、あたりに満ちた――。





 薄暗い部屋の中。
 あきらかに屋内にもかかわらず土がむき出しになっている。
 その地面から首が生えてた。
 人の首ではない。獣の、犬の首だ。
 体を土中に埋められているのだ。

 ぜーぜー、ひゅーひゅー、ぜーぜー、ひゅーひゅー。

 目を血走らせ、荒々しくも弱々しい呼吸を凝り返す。
 弱っているのだ。
 何日も食事を与えられず、死が迫っている。
 一人の男が歩いてきた。齢は三十前後。背広姿の、どこにでもいる企業勤めのサラリーマン。といったいでたちだが、服からのぞく顔と手にある生々しい火傷の痕が痛々しい。「ちょうどいい塩梅だな」
 衰弱しきった犬の姿を見て、火傷だらけの顔に満足そうな笑みを浮かべる。
 男は一度部屋から出ると、すぐに戻ってきた。手には血のしたたる生肉とノコギリが握られていた。
 生肉を犬の前に置く。

 ぜーぜー! ひゅー! ぜーぜー! ひゅー!
 
 犬の首が大きく動く。目の前の肉塊に食らいつこうと何度も歯を噛み合わせる。
 最後の力を振り絞り、飢えを満たそうとする犬の首に男がノコギリの刃をあて――。
 引いた。

 ぜー! ぜー!

 引いた。

 ぜー! ひゅー! ぜー!

 引いた。

 ぜー ぜー ぜー ひゅー

 男は無言でノコギリの柄を握り、引き続ける。
 刃が肉を裂き、血が飛沫をあげる。その一回一回ごとに犬の声が弱くなる。
 やがて犬の声も聞こえなくなり、ノコギリを引く手が止まる。その瞬間、犬の首が生肉目がけて飛んだ。
 切断面からはおびただしい量の血が、否。黒い霧のようなものが、瘴気が吹き出ている。
 恐ろしい形相で肉に食らいつき、息絶えた犬の首からあふれる瘴気。
 霊災だ。その段階はすでにフェーズ2の域まで達している。
 男はみずからの手で霊災を作り上げたのだ。

「……準備はできた。陰陽師どもめ、次はおまえらの首を刈ってやる」

 ニヤリと、男がふたたび笑みを浮かべた。口が、耳元まで裂け、異様に発達した犬歯がのぞく。
「かつては国家の存亡をも操ったというわが犬神筋の力。それを外法′トばわりし、排した愚かさを悔やむがいい。そしてわが犬神筋の復興に役立てることに、感謝するがいい」

 男はそう言いながら瘴気をまき散らす犬の、犬だったモノを両手でつかみ、強く抱きしめた。

「まずは陰陽塾。忌々しい陰陽師どもの卵から、たいらげよう――」





 陰陽塾。
 テストの終了を告げるチャイムが鳴ると、塾生たちのため息がいっせいにもれ、張りつめていた教室内の空気がたちまち弛緩する。

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