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ダン梨・I
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いいよ」と言えるというのは、尋常ではない判断だ。内容も半端に下手に出るのではなく、厳しい条件によってフェアな関係を保とうとしている。

 正直、こういう返しをされるとは思わなかったので少し悔しく思う。一枚上を行かれたという、してやられた感覚だ。だからリリも、この男の計画に乗ってやろうと思った。
 どちらにしろ、ソーマ・ファミリアよりは簡単に逃げられるのだ。彼の計画が絵に描いた餅に終わるかどうか、見届けてから終わってもいい。

 だが――。

「どうして自分から傷つく必要があったんですか……?」
「迫真に迫る演技くらいはしないと、掴めるものも掴めないだろ?いてて………」
「ホラ動かない!まったく、また無茶ばっかり!」

 ぷんすか怒るベルの治療を受ける目の前の食わせ物が、何かリリの価値観と痛烈に食い違う。
 頭の回転がいい存在というのは、自分が傷つかず手を汚さずに利益を得ようとする、そのために狡いのだ。リリは少なくともそうだった。しかし目の前の男は、自分が傷つく事でよりよい結果を求めようとする。リリに言わせれば、こういういい方は癪だが『根性がある』。自分自身よりもだ。

 痛みに耐えるのは、簡単だ。策謀とて多少は巡らせられる。しかし他人を従えるのは無理だし、脅すのも無理だ。それは単純にリリの身体能力や技量の問題でもあるが、きっとバミューダとリリの違いはそこではない。

「納得できないって面してるから勝手に喋らせてもらうけどさ。代償を伴わない結果って、満足いくものになると思う?安い金で買った品は所詮やすっぽっちな品質しか持ち合わせない。結果得るなら目利きだけじゃなく相応の金を払わなきゃね」
「毎日品を値切ってるバミューダが言うと説得力半減だね」
「馬鹿め、代償は払ってるぞ。値切りに費やす時間と体力だ。タイムイズマネーの体現者だな」
「名前マネーダに変えとく?」
「ドラクエに出てきそうだなマネーダ」
「僕は確信を持って言うけど、多分その『どらくえ』はこの世界でバミューダ1人にしか分からない奴でしょ。ぜのぎあすおーぴーごっこと同じ系統でしょ」

 リリはこれ以上の痛みから逃げ出す事を選んだ。解放され、痛みにはもう向き合いたくないと思った。それは危険区域からの退避、つまりは逃亡者だ。しかしバミューダは痛みを伴わない行動が出来るのに、現状に満足せず環境を変える為に自ら痛みに飛び込んだ。逃亡者ではない、開拓者なのだ。
 バミューダは強者ではある。しかし決定的な強者ではない。その行動にはベルのそれを大きく上回るリスクがあり、それを小手先の技術と知恵でカバーして大きく見せている。本質的弱者――それでありがなら、格下を貶めて汁を吸うのではなく格上に立ち向かって虎視眈々と隙を狙う。

(精神的、強者。逆境に立ちながら泥の中で上を
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