水虎
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』は年に一度だ。もう、用心の必要はないよ」
「………そうなのか」
珈琲の空き缶に吸殻を潰し入れ、最後の紫煙をゆっくり吐く。今日の奉は妙に、口調がゆっくりしている。何というか…言葉を慎重に、慎重に選んでいるような気がする。失言の宝庫みたいなこの男が。
「魂ってのが何の為に、どんな風に産まれるのかは俺は知らない。ただ一つ…消せないんだよねぇ、これらは」
擦り切れて消滅することはある。だが、故意に消す方法は『あれ』を始めとする、魂を食う連中しか知らない。どうも奴らは、なんらかの意図で作られた『システム』のようにも思われる…そんな意味の言葉を途切れ途切れに綴ると、奉は黙り込んだ。
「―――それにしても、だ」
沈黙に耐え切れず、俺から軽口を叩き始める。
「俺の枕頭に、家族の一人も集わないというのはどういう事だろう。お前、ちゃんと家族に連絡してくれたんだろうな」
「連絡なら」
「したのか」
「きじとらに」
「何で!?お前が迎えに来てもらってどうすんの!?倒れたの、俺だよね!?」
「……うるさいねぇ。どれ、鴫崎でも呼ぶか」
「集荷!?集荷みたいな扱い!?」
「……鴫崎といえば」
「……何だ」
「今日の配達、3時に時間指定していた…ような」
「まじか…今4時じゃん、無意味にあの石段昇らせたの!?鬼なの!?こんなことして病院にまで呼びつけたらガン切れ位じゃ済まないぞ!!」
ようやくいつも通り云い合いが始まった頃、きじとらさんがひっそりとドアの隙間から滑り込んで来た。…相変わらず、気配を感じさせない動作だ。クリーム色に柔らかい緑のラインが入ったコートが、清楚な早春の花のようで似合っている。
「奉様、お迎えに」
「おう」
それだけ云うと、奉は挨拶もなしに踵を返した。ただ一言、妙な言葉を残して。
―――大人げない、事をしたねぇ。
「―――奉様は、少し拗ねておいでです」
奉が部屋から遠ざかるのを見計らって、きじとらさんがそう囁いた。
「……え?なんで?」
「彼女が出来て、友達も増えて、最近あまり、洞においでにならないから…」
きじとらさんが猫の目で凝視してくる。…俺は、やっぱりこの人の凝視が少し苦手だ。居たたまれない。
「うむ…どうでもいい用事が増えただけなんだけど…」
なるべく不自然じゃないように目を反らし、息を呑みながらそう返した。それにしても…俺が居ても居なくても本ばかり読んでだらだらしているだけのあいつが、俺が来ないから拗ねる?…馬鹿な。
「馴染みの置物に勝手に遠征されたような、そんな寂しさを抱えていらっしゃいます」
「イヤ酷いな普通に」
「だからつい、結貴さんに酷な上に不必要な二択を迫ってしまったと、気にされていて。意地悪をしてしまったと」
不必要な二択…。たしかにそうだ。結局どうにもならない
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