水虎
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の両親と思しき中年の夫婦が飛び込んで来た。彼らは何かを叫びながら俺達の間をすり抜け
麻の白線を、蹴散らした。
心臓を掴まれたような動悸。周囲を巡っていた鼻息はやおら高まり、嘲るように生臭い臭気を撒き散らすと、すいと遠ざかった。そして号泣に紛れるように…駄目だ、やっぱり、駄目だ、やめろ
「聞くな。嫌な音がするぞ」
奉に二の腕を掴まれ、部屋から引きずり出された。そのまま俺たちは『あの音』から逃げるように早足で階段を駆け上がり、いやに明るい病院のロビーに逃げ込んだ。
俺が覚えているのは、そこまでだった。
『あの音』が、頭を満たす。
耳を塞いでも目を閉じても、あの音が消えない。
一度、ぎゅっと目を閉じてから、俺は再び目を開けた。…煙草の匂いがする。
「思ったより、早かったねぇ」
白い天井が、視界に飛び込んで来た。そして清潔な白いシーツと薄い毛布。状況を把握するのに、30秒ほど掛かった。
俺はどうやらロビーに駆け込んだ後、そのまま昏倒したらしい。
友達が急死したショックで昏倒した、という奉の説明と、変態センセイの計らいで、俺は妙に高級なしつらえの個室で寝かされていたらしい。俺はゆっくり身を起こし、ぼんやりと天井を見上げた。
「大丈夫だ。変態センセイはあれでも医師だからねぇ。忙しいから後で来るってよ」
「……し、診察されたのか!?」
「内臓とか抜かれてなければいいねぇ」
そう云って奉は、ゆっくりと紫煙を吐き出した。厭なわだかまりでも吐き出すように。
「……草間は」
厭な話なのは分かっていたが、聞かないではいられなかった。
「もういいだろ、その話」
「音を聞いたんだ。こう…妙に耳障りな」
奉は暫く、俺をじっと見つめていた。こいつには珍しく、云うべき事と云ってはならない事を選り分けているような顔をしている。俺は奉の中で結論がまとまるのを待つことにした。
「……心を直接、噛み砕かれるような、骨から肉を剥がすような、そんな音だったねぇ」
つまりそういうことよ。…そう云って奉はまた紫煙を吐いた。
「草間は、どうなる?存在とか、それ自体全部なかったことに…」
―――なかったことになるのか。口にするのが怖くて、言葉を濁した。
「その辺はさ…普通に死んだ奴らも、大差ないぜ。魂ってな、所謂ところの人格の素体みたなもんだからねぇ。死んだら記憶やら人格は、ざっくり剥ぎ取られて新しい生に送り出されるんだ。偶にある前世の記憶てな、その剥ぎ忘れだねぇ」
「誰が、剥ぎ取る役目なんだ」
「さぁねぇ…少なくとも人の身であるお前が知っていいことじゃないねぇ」
「冷たいな」
そろそろ笑いながら軽口でも叩き始める頃かと思ったが、奉は姿勢すら崩さず、只紫煙を吐くばかりだ。
「『あれ』も、必要といえば必要な妖らしい。…『食事
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