水虎
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死体に宿る魂をも余さず喰らう為に。
河童の一種とは云われるが、水虎は人から身を隠すことが出来る。現に今、俺達には水虎が視えない。視えないが水虎は死体の周りに在り、その魂を狙う。
「……救う手段は、あるのか」
「そこよ」
のしり、のしり…と、白線の周囲をなぞるように踏みしめる『何か』の気配は高まるばかりだ。『それ』は俺達の傍を通りすがる度に、含み笑いに似た鼻息を漏らしてた。…厭な汗が頬を伝う。
「野に麻で草庵を結び、死体を安置する。そして腐り落ちるまで待つのさ。死体の血を体に取り入れた水虎は、死体と共に腐る。そして完全に腐り落ちた時、その姿を現し絶命する」
そして白線を指先で示しながら、呟く。
「こいつは草庵代わりに拵えた、略式の結界だ。一時しのぎにはなるが、あとはねぇ…」
俺は息を呑むしかない。
「腐らせるって…そんなの、今の日本で出来ることじゃないだろう!?」
土葬は禁止されているし、第一、そんな特殊な状況を遺族にどう説明しろというのだ。
「そ、無理なんだよねぇ…今はね」
「へ、変態センセイ!!ドナー希望偽造できないのか!?得意技だろ!?」
「無理だね」
「何でだ!!」
「その子の身元が、しっかりし過ぎてるからだよ。ちゃんとした親も兄弟もいるし。僕は基本的に完全な社会的弱者しか狙わないんだ。それでも結構危ない橋を渡ってるんだからね」
「最低だなこの変態野郎!!」
「ひどいよ」
肝心な時に役に立たない変態センセイだ。じゃあどうすればいい、どうすれば水虎を…。
「方法は、無くはないんだがねぇ」
奉が顎にあてていた手を放して、また俺を覗き込んだ。
「……お前が、犯罪者になればいい」
「は!?」
「つまりお前が死体を盗み、草庵の中で腐らせればいいんだよ」
静かに、思考が停止した。…盗んで、腐らせる?
「お前は窃盗・死体損壊に問われるだろう。この男の家族には一生恨まれ、罵倒されるだろう。刑務所にも入るし、精神鑑定も受けさせられる。お前の一生は恐らく台無しになろうねぇ。だから俺は、問うんだよ」
―――この男は、お前にとって、何だ?
俺は、覚悟を問われていたのだ。
ようやく思考が追いついてきた。草間の魂を救うために俺は、親や姉を生き地獄に落とし、草間の家族から恨まれ続けなければならない。…困惑するしかなかった。そんな根拠に乏しい覚悟を問われても、俺は。
「…否、だよ」
勿論、草間に非はない。俺にだってない。永遠に救われなくなる草間の魂と、俺の大事な人々を天秤に掛けられても…あまりにも重すぎるのだ、片方の天秤が。
選ぶも何も。こんな二択に選ぶ余地なんかあるのか?…俺は只、困惑していたと思う。
「……意地悪をしたねぇ」
奉の言葉が終わるのを待たず、霊安室のドアが勢いよく開き、草間
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