巻ノ百十一 二条城の会食その五
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「どうせ大坂城に篭れば勝てると思っておられるのであろうが」
「どの様な城も天下全体で囲めば」
「攻め落されまする」
「あの方はその様なこともわかっておられない」
「まさに何一つとして、ですな」
「その通りじゃ、わかっておられぬわ」
実際にというのだ。
「それではじゃ」
「敗れそうして」
「滅びますな」
「では戦になれば」
「当家も」
「幕府につく」
当然といった口調での返事だった。
「伊達家はな、しかも天下が乱れる前にな」
「大坂は滅びる」
「そうなりますか」
「必ず」
「そうなりますか」
「もうわしも天下を諦める時が来たのかもな」
その左目を閉じて瞑目させてだ、政宗は言った。
「最早天下の流れは明らか、だからな」
「それを諦め」
「そしてですか」
「後はですな」
「仙台で」
「政に励むか」
こう言ってだ、政宗は手を引くことにした。そのうえで後は何食わぬ顔で大名達の前にも家康や忠輝の前にも顔を出した。
その政宗を見てだ、秀頼との会見を前にした家康は幕臣達に言った。
「あの者、どう思うか」
「はい、伊達殿ですな」
「あの方はですな」
「実に大胆ですな」
「ふてぶてしいですな」
「見事なものじゃ」
家康はその年老いた顔に皮肉も浮かべて言った。
「まるで何もなかったかの様じゃ」
「つまりもう既にですな」
「尻尾は消してある」
「何かをしようとしていた企みは」
「最早、ですな」
「そうであろうな、しかし何とか掴んでな」
伊達家が天下転覆を狙っていたそれをというのだ。
「そうしてじゃ」
「そのうえで、ですな」
「何とか尻尾を掴み」
「そうして」
「何とかじゃ」
まさにというのだ。
「伊達家を取り潰すぞ」
「そうしますか」
「何としても」
「これを機に」
「そうしますか」
「大方伊達家が黒幕じゃ」
まさにというのだ。
「大久保家ではなくな」
「あちらの家の方がですな」
「少将様の預かり知らぬところで」
「そうしてそのうえで」
「天下取りを企んでいた」
「そうなのですな」
「そんなところじゃ」
まさにというのだ。
「あの者、何とかな」
「ここで何とか取り潰し」
「天下の乱れを封じますか」
「そして次はですな」
「どうしても」
「そうじゃ、あの者だけは」
こう言ってだ、何としてもだった。
家康は伊達家を滅ぼすつもりだった、しかし彼もそれは表に出さずそのうえでだった。政宗と会ってだった。
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