IF STORY
短編
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ちょ……??」
ガシッと力強く腕を掴まれ、無理矢理立たせられる。反動でよろけた俺が姿勢を正す前に引っ張られれば抵抗する間も無く引きづられて行くのは仕方ないことだろう。
登りエスカレーターまで引っ張られ、半ば釣り上げられるようにそれに乗せられた俺は何処かへ連行されて行った。
やって来たのはデパートの屋上にある庭園だった。手入れが行き届いていて清潔感のある場所だが、人気がない。何故なら屋上とは言っても周りはデパートよりも高い建物が数多く建ち、景観は愚か陽当たりも風通しもあまり良くない。積極的に来たい場所では無かったが、木綿季に引っ張られるまま屋上に続くガラス戸を潜る。
「木綿季?」
色々混乱していたが、雰囲気から木綿季が怒ってるような、そんな感じが伝わって来る。
「……まあ、ボクもあの時はっきり言わなかったけどさ」
「……ああ」
曖昧な感じなのは、木綿季も自分の中で怒りを向ける矛先を定めかねているからか。何もしようとせずに諦めていた俺にか、はっきり言わなかった自分にか。
「木綿季に、嫌われたくなかったんだ」
先程、どうやら話を半分くらいから聞いていたようなので率直に切り出す。木綿季は俺に背を向けたまま肩をピクッと動かすと、はー、とため息を吐いた。
「確かにあの事を訊くのはどうかと思うけど……」
「それに、あんまり自信無かったしな」
「はぁ……」
木綿季ははっきりと呆れていた。そして背を向けたまま暫くうー、とかあー、などと唸ると、くるっと振り返る。ロングヘアの黒髪がふわっと宙を舞い、滑らかに流れて落ち着いた。振り向いたその顔はごく自然な笑みで、吹っ切れたような清々しい様子だった。
「全く……螢は何時でも螢だね」
「何だそれ。それを言うなら木綿季もだろ」
「当たり前だよ」
「だろうな」
木綿季のような、芯のしっかりした人間になりたいと思った。それと、もう少し自分に自信を持とう、と。きっと、そうすれば胸を張って木綿季の隣に立てるだろう。
「螢」
「ああ」
近づくと木綿季は嬉しそうに腕を絡めて来る。突然の事で驚いてしまい反射的に腕を引こうとするが、意外に強い力で捕まえられ、動かす事が出来なかった。
ビルの隙間から太陽が覗き細い光の筋が照らした道筋を、俺たちは再びガラス戸に向かって歩いて行った。
「ユウー!準備出来たー?」
「ちょっと待って姉ちゃん!リボン無い!」
「えー……。机の上は?」
「ええと……あ!あった!今行くよ!」
時刻は午前8時頃。朝っぱらから隣の家が騒々しい。
「……ああ、今日入学式か」
木綿季には、あれ程よく準備しておけ
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