巻ノ百十 対面その三
[8]前話 [2]次話
「この病の様じゃな」
「片桐殿のことはそれがしも聞いていました」
「そうだったか」
「はい、しかし加藤殿もですか」
「その様じゃ、しかもかなり重い」
「では間もなく」
「うむ、世を去ろう」
そうなるというのだ。
「間違いなくな」
「では加藤殿にとっては」
「最後の奉公になる」
「その最後のご奉公をですな」
「用意する、そしてな」
「してもらう」
その加藤に是非にというのだ。
「ここはな」
「あの加藤殿が」
柳生はその話を聞いてまずは瞑目した、加藤のその武と民への善政を思いそれで言ったのだった。
「死は運命なれど」
「残念に思うか」
「はい、加藤殿も戦の場で死にたいでしょうか」
「そう思っているであろう、あの者も武の者じゃ」
「唐入りの時は戦の間の余興に虎を狩られていたとか」
「そうした者だったからな」
そこまでの武の者だったからだというのだ。
「戦の場で死にたかったであろう」
「そうでしょうな」
「わしも出来ればそう思っておる」
家康は自身の考えも述べた。
「死ぬのならな」
「畳の上ではなく」
「戦の場で」
「今もそう思っておる」
まさにというのだ。
「やはりな」
「左様ですか」
「三河におった頃からじゃ」
まさにというのだ。
「思っておってな」
「そして今も」
「矛盾じゃな」
笑ってだ、家康はこうも言った。
「それは」
「はい、泰平の世を望まれ」
「それでこうも思うからな」
「確かに矛盾しています」
柳生から見てもというのだ。
「まさに、ですが」
「それでもか」
「大御所様がわかりました」
「わしがか」
「やはり大御所様は三河の時からです」
「わしだというのか」
「伝え聞くよき部分は変わっておられませぬ」
そうだというのだ。
「そう思いました」
「そうか」
「はい、まさに」
「ならよいがな、しかしそれはな」
あくまで、と言う家康だった。
「わしだけの考えでな」
「天下のことを思いますと」
「戦はないに限る」
「天下、そして民の為には」
「まさにな」
こう言うのだった。
「やはりそれが一番じゃ」
「戦がないことが」
「そうじゃ、しかしそれでもな」
「花柳の病はですな」
「罹るものではない」
眉を曇らせてまた言った。
「やはりな」
「あの病は」
「お主も見てきたな、あの病に罹った者は」
「普通に弱って死ぬ者もいますが」
「虎之助や市正はそうらしいがな」
加藤や片桐はというのだ。
[8]前話 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ