その物件にはテナントが入らない
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げて来たものの、あっちの味が忘れられない連中がな。と呟いて、爺ぃが首を竦めた。
「行方不明の福本も、多分こっちにいるんじゃろ。こっちの暮らしが気に入っていたようだしな。…そういう連中にとって、大衆食のラーメンはまさに、うってつけの料理だよ」
そうこうしているうちに、俺たちの周りに人垣が出来始めた。
―――ラーメン屋だ
―――も、戻って来たのか!?
―――またラーメンが食えるのか!?
なんかよく見ると、大半が『あっち側』の連中っぽい。歓迎を通り越して半ば殺気立った視線が突き刺さる。爺ぃが大きく頷くと、人垣からどよめきと歓声が一気に上がった。
「―――というわけだ。連中の世話は頼んだぞ『異世界ラーメン屋』」
つまりは、そういうことだったのだ。
あのテナントは云わば、ここと異世界を繋ぐ門。そして門は番人を求め、こんな具合に契約を強いるのだろう。俺はラーメン屋というよりは、ここの番人なのだな…今日も満席の店内でラーメンを茹でながら、ぼんやりと考える。
結局俺は、よく分からない『契約』とやらに導かれるままにラーメン屋を継いだ。何だかんだ云って、少しくらい立地がおかしくても、開店前からあんな入れ食い状態を見せつけられて退くことなんて考えられない。商売人の悲しい性だ。
それとなく店内を見回してみる。『あちら側』の連中は勿論、開店当初は一番のネックとなると思われたオーク、そしてドワーフや人狼、リザードマン…亜人の中でもどちらかというと『いかつい』連中が、店内にひしめき合う。エルフとか妖精とか、そんな可憐な種族はラーメン屋なんぞに出入りしないのだ。そこら辺は『あちら側』とそんなに変わらない。…カフェにすればよかった。
福本とかいう前の担当者も、程なくラーメン屋に現れた。
「やっぱりねー、コイツばかりは忘れられなくてねー」
などと、ラーメンをすすりながら呑気な事をほざいている。こいつがしっかり引き継ぎをしなかったせいで、俺はこのテナントに絡めとられたわけなんだが。俺が少しばかりの恨みを込めて云うと、奴はテカテカの額を丁寧に拭きながら笑う。
「なんかね、『そういう運命』だったんじゃないですか、私も、あなたも」
「……運命ねぇ」
―――そろそろ桜木も現れる。裏口とはいえ、いくら何でもマスターキーを濫用しすぎじゃないか。ほぼ日参状態の桜木も、そのうちこのテナントに絡めとられるのだろうか。
こうして俺の異世界ラーメン屋としての人生がスタートした。
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