その物件にはテナントが入らない
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いた。
「なら、ついてこい」
しょっと…と小さく呻いて爺が流しの下に潜り込んだ。俺達も何かに操られるように、ふらふらと続いた。
「……えっ?」
空気が甘い。
洞を抜けた俺が最初に感じたのは、そんな漠然とした違和感だった。
屈まなければ通れない程だった小さな横穴は、進めば進むほど大きくなり、仕舞いにはこの中で一番背が高い桜木でさえ直立できる高さになっていた。そして10分も進んだ頃だろうか、薄暗がりに埃を被ったドアが現れたのは。
ドアの向こうに広がっていたのは、10人掛けのカウンターと4人掛けのテーブルが6つ揃ったこぢんまりとした店舗だった。俺達が出て来たドアは使い込まれた厨房に直結している。広くはないがラーメン屋を営むには十分な設備だ。俺は一つ一つの設備を貪るように確認した。…完璧ではないが、十分な使い勝手だ。
「こ…ここは…」
俺は反対側の、つまり入口のドアに駆け寄り勢いよく開けた。…甘く重い、明らかに組成の違う空気が俺を押し包んだ。
「……は?」
見たことのない奇妙な葉脈。
知っている餅と良く似た、穀物をついて丸めたような食べ物を籠にいれて振り売りながら行き交う商人。
奇妙に湾曲した街並み。町全体が…というか建物の構造が妙に適当というかいい加減なのだ。
「……沖縄?」
「いやいやいや、何云ってんすか。こんな沖縄ないですよ!?」
「知らねぇし、沖縄行ったことねぇし。で爺さん、沖縄じゃないならここは何処なんだ?」
「―――異世界、というやつかの」
はぁ!?と云いかけた俺の横を、オークと思われる巨漢が横切り咄嗟に口を噤む。
周囲を行き交う連中をよく観察してみると、肌の色が微妙に青かったり、耳が異様に尖っていたりと、ちょっと『亜人』らしい気配が漂う。言葉…は、何だこれ全然分からん。英語でも中国語でもない。
甘い空気に押し包まれながら、俺は静かに愕然とする。
「―――異世界じゃん」
「―――良かったですね、流行りのジャンルですよ」
「うるせぇ黙れ」
さっき爺ぃが云っていた衝撃発言が、頭の中を駆け巡る。
―――ここを潜る、てことは、『契約』が結ばれるってこった。
ただ真相を知りたくて仕方なかった故に軽はずみに結んでしまった『契約』の代償は、これか。
「エルフやホビット相手に、ラーメン屋を…?」
「結構流行ってたぞ、競合はないし安心しろ」
「いやちょっと待てよ、オークがウロウロしてる界隈で豚骨ラーメン売るとか喧嘩売ってる感じじゃないか!?これ殺されても文句云えなくね!?」
「ははは…ジャンルが近いだけで別物と見做しとるよ。俺らで云えばほれ、猿の脳みそ的な感覚?」
「ゲテモノじゃねぇか!!」
「それに、客は亜人ばかりじゃないんじゃ。…割と居るんだよ」
『こっち側』に逃
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