最終話 いつの日か、きっと
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外れた膂力が成せる芸当を目の当たりにして、助けられた少年はもちろん、周囲の人々も唖然となっていた。その英雄的行動に拍手が送られたのは、それから何秒も過ぎた後のことである。
「と、ともくん、ともくんっ!」
「あっ……お姉ちゃんっ!」
やがて、トラックから降りてきて頭を下げていた運転手を押し退けて――太?と同じブレザーを着た少女が、少年を涙ながらに抱き締めた。どうやら、少年の姉であるらしい。
家族と触れ合ったことで緊張の糸がほぐれたのか、少年も釣られるように泣き出してしまう。そんな姉弟を微笑ましく一瞥し、太?は立ち去ろうとする……のだが。
「あっ……ありがとうございます、ありがとうございますっ! ともくん……弟を助けてくれて! なんてお礼を言ったらいいか……!」
「はは、礼なんて別にいいですよ。その子が無事で、本当によかっ――!?」
顔を上げた姉に呼び止められ、振り向いた瞬間――言葉を失ってしまった。
シンシアがいたからだ。
……否、シンシアではない。それは、太?自身も頭で理解はしていた。
が、余りにも瓜二つだったのだ。くりっとした優しげな瞳も、穏やかな顔立ちも、ショートボブの黒髪も。さらには、声まで。
肌と眼の色を除けば、シンシアそのものと言ってもいい。それほどに似通った少女が、自分を真っ直ぐな眼差しで見つめていた。そんな眼も、ますます彼女を想起させる。
「……っ」
「えっ……あ、あの、どうかされたんですか? もしかして、どこかお怪我を……!?」
思わず視線を外し、俯いてしまう。悲痛に歪んだ顔を、隠すために。
だが、小柄な彼女は下から見上げたことで、その表情に気がついてしまった。胸に両手を当て、心配する彼女の優しさが――今の太?には、ただただ痛い。
「……大丈夫、オレなら大丈夫ですよ」
「えっ……?」
「今は無理かもだけど……きっといつかは、大丈夫。大丈夫だから」
やがて、痛みを噛み締めるように顔を上げた太?は。精一杯の「笑顔」で、シンシアに似た少女を気遣う。
その口から出た言葉の意図を見出せず、小首を傾げる少女。そんな彼女の表情を、微笑を浮かべて一瞥した後――太?は、踵を返して走り出した。
路傍に咲き誇る、一輪の蓮を通り過ぎるように。
「……それじゃあ、オレもう行きますね!」
「えっ……!? あ、あの、待ってくださっ――!」
再び呼び止めようとする少女に構わず、太?は通学路をひた走る。瞼を腫らす感情の波を、振り切るように。
(さらば涙、ようこそ笑顔――か)
その表情は悲しげなようで、優しくもあり……それでも確かに、笑っていた。
(シンシア。オレはいつか、きっと――)
彼の笑顔から、悲哀の色が抜け落ちる時
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