第二話 それぞれの事情
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目を落としていた顔を上げ、姿勢を正し言葉を発する。こんなに折り目正しい人材を企業は求めているのだろう。
でも、残念な事に立派なリーゼントにしちゃっている年齢不詳の中学生兼秘書的役割を務めている副委員長。
「ちょっと発散して来て良いかな?」
立ち上がり、椅子の背もたれに掛けていた学ランをヒラリと羽織る。
もうそれは許可でなく、行って来ると言っている。
「委員長!? それはっ」
叫びに近い静止の声もあっさり躱して、
「そこら辺の虫ども片付けて来るよ」
片手を振って扉を閉める。残された草壁には悪いけど、これ以上は発狂する。
丁度いいところに獲物も確保出来た事だし、道中の虫と合わせて一掃するのも悪く無いよ。
その1点に置いて、個人的に『美化委員会』でも良いんじゃないかと思う。
外に出て、まず目に映るのは、この時期一色に染める桜並木だろう。
3月の終わり頃咲いた花は、4月の頭頃に散り始めていた。
なんとなく、いつもは立ち止まらないのに見とれていたんだろう。最近心穏やかにする暇なんてなかったから。
しばらくの間は、爽風に髪を靡かせながら感傷に浸る。
桜餅食べたい。
丁度腹も空いて来たところだし、そろそろ行こうかと踵を返した。
桜色の中に浮かぶ人影にようやくそこで気付いた。
ざああっと、過ぎた風の向こうでこちらを見ていた人物に気付かないなんて。
幼い頃から武芸を嗜んで来た者として、それは些か矜持に関わる。
相手はどう見ても、素人。隙だらけなのだから。
ふわっとした茶髪のくりっとした眼が可愛らしい少年。胸の花は新入生を現すもの。
そういえば今日は入学式か。忙しくて缶詰だったから忘れてたよ。
ジッと観察していた。だって、もしかしたら実力を隠してるのかも、とか思いたいじゃない。
「こんにちは」
声をかけられるとは思ってもみなかった。一応風紀委員の校章をつけているのに。
知らないのか?
なら外部からの新入生か。そんな事を頭の中で洗っていると(新入生の資料は一通り目を通したし)
「ああ」
そういえば、この子の髪。地毛らしいから風紀の処罰対象外指定されてたような
つい漏らした声に、この子の反応は目に見えて嬉しそうなった。違うな、泣きそう? なんで?
でも笑おうとしている理由も分からない。
泣きそうなのに笑う。そういえば、あの子もそんなところがあったっけ
ふと思い出した人影に懐かしさが過る。穏やかに笑うその顔は
「綺麗ですね」
そう
「うん」
綺麗だったんだ。
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