1-1話
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この薄暗がりと立て続けに降りかかる異常事態のせいで、皆の心が恐怖に染まるのは一瞬だった。
「ヤ…ヤベーぞアキラ! まさかこのまま……!」
誰かに声をかけられてオレは眼を開けた。
落下の感覚に思わず視界を塞いでいたようだった。
周りに視線を流す。
そこには堕ちる感覚に身動きが出来ず、悲鳴を上げて顔を引き攣らせている者だけしかいなかった。
あの蒼い女性の姿はどこにもなく、幻のように影も残さず消え失せていた。
「(消えた………どこに…? …っ……りおん!!)」
オレはそこで、心の中で最も近しい人の姿をフラッシュバックさせた。
夢から覚めるように気持ちで現実に引き戻したりおんの安否に頭が一杯になる。
この混乱の中で離れ離れになってしまった幼馴染が気掛かりになり、弾かれるように踵を返した。
「(りおん…!)」
視界の効かない機内に眼をこらして彼女の姿を探す。
誰もこちらには目もくれず、各々が戦々恐々《せんせんきょうきょう》の思いで蹲っている。
オレだけが、他よりも何倍の動きで機内を探し回る。
どこだ…どこだ…どこだ……!
早く見つけたい…だが、足元がおぼつかない。
走っているのに、足が床を掴んでいる感覚が鈍い。
重力に追いつく速度で落ちていく航空機の中、シートに手をかけながら薄暗がりの中で人影を探す。
「りおん…りおん! りおん! りおん! りおぉん!!」
周りの悲鳴に負けないように喉が張り裂けそうになるほどに、彼女の名前を呼びかけた。
何度でも…。
「りおっ……あっ!」
―――そこにいた。
暗がりの中、彼女を見つけた。
同時に向こうもオレの事を見つけた。
通路の真ん中で小さくなり、パニックの渦に飲み込まれないよう蹲っていた彼女は、まるで洞窟の中で光を見つけたかのように手を伸ばしてきた。
そして彼女はこちらを意識してオレの名を叫んだ。
「アキラくん!」
差し出されたりおんの手を掴みとろうと、オレは伸ばした腕は―――。
「りお……!」
ついぞ繋がれる事はなかった。
「り・お・お・おおぉぉん!!」
――――――。
動物の鳴き声が聞こえた。
目覚まし時計のようにけたたましく、そして不快だった。
聞き覚えのない何種ものの鳴き声が入り雑じり、雑音となって眠りを妨げる。
海底に沈む砂のように、沈黙する闇の中にあったはず意識が覚醒へと引きずり出される。
一度浮上し始めればあとは速かった。
明確になっていく意識により耳が捉える雑音はボリュームを増し、五感《かんかく》が復活するのに時間は掛からなかった。
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