1-1話
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「仙石ぅ…この馬鹿が!」
「すみません!!」
航空機の入口でオレは響くような怒号を叩きつけられた。
エンジンの駆動音すらかき消しそうな怒鳴り声に対して、同じボリュームで返事を返す。
両手に一杯の荷物を吊り下げながら、オレは土下座しそうな勢いで謝罪した。
怒り心頭で眉を顰める男性教師は今にも拳を振り下ろしそうなほど青筋が立っている。
普段の行いが行いなだけに、そうされてもおかしくない。
思えば、グアムでは日常を離れたという実感を得るためにあんな事やこんな事をしたもんだ。
若さゆえの誤ちというか…ちょっとやりすぎたと思う。
片方何キロにもなる荷物のせいで、腕が震えてきたが、怒髪天《どはつてん》を衝いている教師の目の前で迂闊《うかつ》な動きは出来なかった。
「全く貴様は…」
「あ、あのぉ……そろそろヒコーキ出ちゃうんですけど」
近くで控えていたスチュワーデスさんが、おずおずと話しかけてきた。
教師の怒りに怯えているのかどこか頼りなさそうな感じだ、スチュワーデスとしてどうかと思うけど…。
現在、怒られてる理由は単純にして明快だ。
“色々”と買い物をしていたから既に離陸時間は超過《ちょうか》しているのだ。
この航空機には半分以上が学生で占められてはいるけど、一般客も結構な数が乗っている。
迷惑なんてこの時点でかけてしまっているけど、これ以上の時間の遅れも流石にまずいので教師も仕方なく怒りをおさめる。
「…そうですね、すみませんね。 もう出発していいと伝えてください」
「は、はいっ」
ようやく開放されたとオレは安堵して、教師の横を通り過ぎる…が。
「仙石…覚えておけよ。 この件に関しては近いうちにタップリと、な?」
…やっぱりそんなムシの良い話はないですよね、はい。
―――10月4日 快晴 太平洋上空。
≪出発が遅れましたことを、皆様に重ねてお詫び申し上げます。 当機はただ今、高度一万メートルで安定飛行に入りました。 約二時間半ほどで日本へ到着の予定です≫
何百人ものの人を乗せられた航空機のアナウンスは慣れた感じで伝えてくる。
学生二百人弱と教師十人ちょいに白い視線を浴びながらもオレは帰路に着いた。
あっという間のグアム旅行だった。
時速で何百キロものの速度を出す航空機は二時間半で元の日常に戻る。
喧しくも談話をはばからない生徒達もまた、日本という故郷に帰ってそれぞれの生活に戻るだろう。
それがオレ自身…仙石《せんごく》アキラを含めての日常だ。
まぁ…そんな事はどうでもよかった。
今だけはそんな事は忘れたい。
「せ、仙石…よせ……マジかよお前」
呆れ
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