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歌集「春雪花」
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 小夜更けて

  想いに耽て

    ため息を

 つきてや眺む

    空に月の

 なかりき闇に

  色もなく

 虫も鳴かずば

     冬の音を

 聞くや暮れにし

   秋なれば

 君ぞ恋しく

    侘び濡れて

 風そ叩くは

    戸か胸か

 惑いて問ふは

    虚しける

 影もなからむ

  枯れ野原

 いづこへ行けば

    逢ゑにけると

 求めてやまぬ

  恋し君の

 名を呼びたるも

     風の音に

 消され流るは

  遥かなる

 在りし日の影へ

    塗り込めし

 届かぬ想いそ

     見えぬ月に

 言の葉求めば

    枯れ葉散り

 還らぬ時は

     無情にも

 年を取らせば

   果敢無きて

 わが玉の緒の

    空しける

 いつぞ散らむと

     ため息を

 つきてや想ふ

  君の影

 恋に嘆きて

   小夜に耽にし



 真夜中…彼を想い溜め息をつき、暗く月のない空を眺める…。

 真っ暗な夜空…秋虫の鳴き声もなくなった静かな夜更けは肌寒く…まるで冬の音が聞こえるかのようだ…。

 そんな晩秋の寂しさに、君を恋しく想い…風がカタカタと戸を叩けば、自分の胸を叩かれていると錯覚してしまい…ふと風にどちらだったのかと問い掛けるのも虚しく思う…。

 月のないこんな夜には、近くの枯れ芒に覆われた野原は…きっと足元さえ見えないだろう。
 まるで私の人生のような暗がり…そんな中で、どこへ行けば彼に会えるのだと言うのか…。

 彼が恋しくて恋しくて…求め続けて…名前を呼んでも風は知らん顔をして、私の記憶にある遥か遠い風景へと塗り込めるかのように掻き消してゆく…。

 届かぬ想いは胸を軋ませ…雲に宿る見えない月へと問い掛けさせる…。

 どうして私は彼を愛さずにはいられないのか…。

 そう問いかける私に返ってくる言葉なぞありもせず…枯れ葉が散り去る音がするだけ…。

 時間は流れ…決して逆巻かず…無情に人を老いさせてゆくもの…。

 人は儚い…そう思うと、私の命なぞ全く軽々しく…一体いつ散り逝くものかと溜め息をつく。

 こんなに辛く苦しく生きるのならば、長生きなぞしたくはない…そう思い、再び溜め息を洩らした…。

 彼を想い続けて…彼を愛し続けて…この恋に嘆いて…

 真夜中に耽るのだ…。


 ただ…彼を想う…。




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