とある男のお話
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昔々――といってもそこまで昔ではない昔のお話さ。日本ではないどこか遠くの国のお話さ。
その国にはとある家族が住んでいたのさ。
歳はそうだな……三十代くらいにしておこうか、三十代くらいの夫婦とまだ生まれたばかりの可愛い女の赤子の三人家族さ。
「ほらほら早く早くー」
「待ってくれマリアンナ、少し休憩させてくれないかっ」
「駄目よ。こうしてアナタと呑気に喋っている間に特売のハムが売り切れてしまったらどうしてくれるのかしらねぇー?」
「キャッキャッ」
「……もぅ。アンナまでマリアンナの味方か」
「そうよねぇ。アンナはお母さんの味方だものねぇ」
「「あはははっ」」
いつも元気一杯の姉さん女房のマリアンナと尻に敷かれた男。正反対の性格の二人だったが、だからこそ惹かれ合うものがあったそうだよ。
裕福とは言えない家庭だったけど、三人はとても幸せだった。金はないけど愛だけはあるってね。
贅沢な暮らしが出来なくても家族三人が仲良く平和に暮らせているなら――それでよかったのに、
「………ッ」
「どうしたっマリアンナッ!?」
ある日男の妻が倒れてしまったんだ。不治の流行病だそうだよ。しかも、
「……どうして私をおいて先に逝ってしまうんだい。……君はどうしていつも私の先を行くんだい。……マリアンナ」
まだ若かったのに、生まれたばかりの幼い赤子がいたのに、男を残して先に逝ってしまったんだよ。天国にへとね。
妻を早くに亡くした男は妻の忘れ形見の娘と二人で仲良く暮らし始めたんだ。
「先生っ急患です」
「わかったすぐに行く」
不幸か幸いか男は医者だったんだ。
患者がいると聞けば、国境だって山だって越えて治療しに行ってしまうお人好しな医者。
「すまいねぇ……」
「いいんですよ。払うお金がないんじゃ仕方ないですよ」
貧しい人からお金をとらずに治療してしまうどうしようもなくお人好しな医者。
「……今月も赤字か」
そのせいでいつも経営は赤字。でも医者は、
「先生、ちょっと腹の調子が悪くて……」
「わしは腰の調子が……」
「せんせー、指切ったぁ」
多くの人に親まれ診療所は毎日にぎやかだったそうだよ。
診療所が赤字経営でも、家が貧しくてその日食べるのもやっとの生活でも、
「……ただいま」
「おかえりなさいっおとうさん」
使えれて帰ってきた自分を温かく向か入れてくれる、娘の笑顔を見ると疲れなんてどこ吹く風、どこか遠くに吹っ飛んでいって男は幸せな気持ちになるんだ。
この娘さえいてくれればそれでよかった。あとはなにもいらなかった。それは真実であり真意だったのにね。
「…………ッ」
「アンナ!?」
神という存在が
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