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そうだ、つまらない話をしてあげよう
とある男のお話
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もし本当にいるのだとしたら相当な曲者だね。もしくは相当な悪戯好きなのかもしれない。
ある時娘が倒れてしまったんだ。皮肉なことにも男から妻を奪った同じ流行病でね。
あれから月日が流れていた。医療も進化して治せなかった病も治せるようになっていたんだ、娘がかかってしまった流行病もしかりだね。
でも治す為に必要な新薬は、

「こ、こんなにですか……」

「それはそうでしょう。だって不治の病だと言われていた病が治せる薬ですからね」

目玉が飛び出してしまいそうな金額だったんだ。当然その日暮らしの貧しい医者にそんな高価なものを買うお金なんて逆立ちしても出てこないさ。

「頼みます!! どうか娘を! アンナを救うためにお願いっ」

「……ごめんなさい」

「……悪いけどうちにお金がないのはあんたも知っているだろう」

「……アンナちゃんのことは本当にお気の毒だけどねぇ」

国中頭を下げてまわったけど彼が助けた人々はみんな彼と同じく貧しい人たち、他人に施せる程生活に余裕はなかったんだ。

「……わたしは……だいじょうぶだから……しんぱいしないで……ね?」

男は日に日に弱っていく娘のただ黙って見ていることしかできなかった。

貧しくともぬくもりがあればいいと思ってた
だが 思い知らされた
金がなくては愛する者すら救えないのだと

いうことに気がついてしまった男はその後変わってしまったんだ。別人へとね。

「金を持ってこい。金がないのなら話ならない」

稼ぐために手段を選ばない拝金主義者なってしまったんだ。
やがて彼は巨万の富を手に入れた――土地を 財宝を 豪邸を 欲しい物はなんだって買える。
どんな高価な医療品だって買える。もうあんな悲しい思いをしないですむ。

「マリアンナ、アンナ。お前たちを治す為に必要だった新薬を持って来たよ。
 ほら見てくれ、一つ、二つ、とケチなことを言わず何十個もあるぞ。これだけあればまた誰がかかったってもう……誰も……」

だけどね。男にもう守りたい人はいなかったんだよ。
愛する妻と娘が眠る墓前であの時買えなかった薬を握りしめ、ただ ただ立ち尽くすしていた……
大金を手に入れても、男は本当に欲しい物を手にすることはできなかったんだ。
命は――愛はお金では買えないのだから。










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