第三章
[8]前話
「だからな」
「稲尾さんがどういった人か理解してな」
「今も敬愛してるんだよ」
「成程な、実績だけじゃなくてか」
「人を見てな」
そのうえでというのだ。
「対している人なんだよ」
「そういえば奥さんもな」
客は有名な落合の細君のことも思い出した。
「自称世紀の悪妻だけれどな」
「そう思うか?」
「目立つ人だけれどな」
客は笑ってその細君の話もした。
「何かと」
「けれどだよな」
「ああ、あの人がいないとな」
それこそとだ、客は言った。
「落合はあそこまでなってないな」
「そうだろ」
「三冠王三回に名球会な」
「そんな大選手になってないさ」
「監督としても名監督だったしな」
「そうなってないさ」
到底、とだ。親父も言う。今度は出し巻き玉子を作っている。
「とてもな」
「だよな、やっぱり」
「奥さんもちゃんと見てたんだよ」
「あの奥さんか」
「そういう人ってことさ」
「そうか、人がわかる人か」
「ああ、それであんたは次どうするんだ?」
親父は自分の話に頷いた客にあらためて問うた。
「次は何を頼むんだ?」
「ああ、注文か」
「どうするんだい?」
「酒はビールだな」
まずはそちらを答えた。
「大ジョッキでな」
「肴は何だい?」
「肝もらう」
鶏のそれをというのだ。
「それ頼むな」
「よし、じゃあその二つな」
「頼むな」
「わかったよ」
親父は客のその言葉に頷いた、そして若い店員に大ジョッキを出させて出し巻き卵の次は串に刺した肝を焼いた。店のテレビでは中日が人類の怨敵巨人を二十点差で粉砕していて落合が解説をしていた。
そっと近寄り 完
2017・7・15
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