第一章
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そっと近寄り
落合博満は難しい人物だと言われている、オレ流と言われている通りとかく我が道を行く男で他の人間にも頭を下げることは稀だ。
だがその彼が敬意を払っていた人物の一人として稲尾和久がいる、かつて鉄腕と呼ばれた大投手だ。
しかし落合は同郷の先輩でも相当な実績のある人物でもそれだけで敬意は払わない、両方なら別だが。
その落合を知っているからだ、ある若い中日ファンは居酒屋で親父にカウンターでビールを飲みつつ言った。
「辞めたけれどな」
「誰がだい?」
まずはこのやり取りからだった。
「前の監督かい?」
「違うGMだよ」
つまり落合だというのだ。
「前の前の前の監督になっちまったな」
「月日が経つのは早いよな」
親父は客の注文である梅くらげを作りながら客に応えた、この客は焼き鳥だが他の客も結構いてそちらの注文だ。
「もう前の前の前か」
「前の谷繁さんが三年、その前の高木さんが二年」
「それでな」
「もう落合さんもそうなったよ」
「それでその落合さんの話か」
「そうさ」
その通りだというのだ。
「あの人結構唯我独尊だろ」
「そういうところがるのは事実だな」
親父も否定しない、落合にそうしたところがあるのは。
「本当にな」
「そうだよな、けれどな」
「けれど?」
「その落合さんが稲尾さん尊敬してたっていうな」
その稲尾和久をというのだ。
「どうしてだい?」
「それが不思議だったんだな」
「ああ、あの人実績だけで人を尊敬しないだろ」
「そういう人じゃないな」
「そうだよな」
「稲尾さんは昔中日のコーチだったこともあるんだ」
西鉄の監督だった時もある、この時チームの状況を考えてかなり真剣に現役復帰を検討したという。
「それでもな」
「それだけで人を尊敬しないよな」
「落合さんはな」
「じゃあ何で尊敬してたんだよ」
「俺その話知ってるぜ」
親父の目がここできらりと光った。
「その話していいか?」
「ああ、どんな話だよ」
「それはな」
親父は客に話はじめた、その話はというと。
落合は最初ロッテオリオンズ、今の千葉ロッテマリンズに入団して活躍していた。だがその頃からだ。
とかく難しい性格だと言われチームの先輩や上層部からの評価は今一つだった。三年連続首位打者や三冠王の実績はあっても。
「あくまで我が道を行く、か」
「人の話を聞かない奴だ」
「こっちも真剣に言ってるがな」
「聞こうとしない」
「難しい奴だ」
「どうしたものか」
こう言ってだ、落合を疎んじていた。しかし当時ロッテの監督だった稲尾はどうだったかというと。
その落合に何も言わず見守っていた、そして。
彼に任せていた、彼が思うままの練習に。
落合
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