第四章
[8]前話
店は繁盛を取り戻した、それで柳吉は忙しく働きつつ一緒に忙しく動き回っているお種に言った。
「よかったな」
「全くだよ、菊之助さんに食ってもらってよかったね」
「ああ、本当にな」
その通りとだ、柳吉は笑顔で答えた。
「よかった、お陰でこの状況だ」
「店はお客さんで一杯だよ」
「俺の蕎麦を食うな」
「これは菊之助さんにお礼を言わないといけないね」
「そうだな、あの人のお陰で繁盛が戻ったんだ」
だからだというのだ。
「ここはもううちに来たらな」
「その時はだね」
「何杯でもただだ」
蕎麦代はもらわないというのだ。
「どんな蕎麦を食ってもな」
「それがあの人へのお礼だね」
「蕎麦屋のお礼は蕎麦でするものだろ」
柳吉は明るい笑顔でお種に問うた。
「そういうものだろ」
「その通りだね」
「だからな」
「菊之助さんにはだね」
「うちの蕎麦はただだ」
どんな蕎麦でも何杯でもというのだ。
「そうしようぜ」
「ああ、菊之助さんにもそう伝えようね」
こう話してだ、そしてだった。
二人は実際に菊之助の楽屋にまた行ってそのことを伝えた、すると菊之助は二人に明るく笑って応えた。
「よし、じゃあそうさせてもらうぜ」
「おう、そうしてくれるかい」
「あたし等のお礼受け取ってくれるかい」
「あの美味い蕎麦を何杯でもただで食えるなんてな」
それこそという口調での言葉だった。
「こんないいことはないぜ、というかな」
「というか?」
「そんな粋なお礼をしてくれるなんてな」
「いいっていうのかい?」
「流石江戸一の蕎麦打ちを言うだけはあるね」
こうもだ、菊之助は柳吉に言った。
「蕎麦には蕎麦かい」
「実際にそう考えてか」
「それがいいね、江戸っ子だよな」
「おう、俺は代々の江戸っ子でい」
実際にとだ、柳吉は自分自身を左の親指で指差してそのうえで答えた。
「それこそな」
「らしいな、じゃあな」
「その粋を受け取ってか」
「蕎麦、思う存分食わせてもらうぜ」
「ああ、何時でも待ってるぜ」
「じゃあ御前さん、菊之助さんにもね」
お種は柳吉に笑って言った。
「最高の蕎麦をこれからもね」
「おお、食ってもらおうな」
「楽しみにしてるぜ」
菊之助は笑顔でだ、夫婦に応えた。そして二人で実際にだった、時折長兵衛に来て蕎麦を楽しんだ。長兵衛の蕎麦は直侍の舞台で食べた通り確かに美味かった。
役者と蕎麦屋 完
2017・4・21
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