第三章
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「そうさせて頂きます」
「それではな」
「お出ししますので」
ハールーンが起き出す時間、食事をする時間は分単位で決まっている。それでもう既に用意は出来ているのだ。後は着席した彼に出すだけだった。そして彼が出したメニューはというと、
玉葱とトマトと共にオリーブオイルを入れた煮豆と牛と山羊、羊のミルクでえ造られたチーズとラブナという濃厚なクリームチーズだった。どれもアラブでは平均的な朝食であり美食家のハールーンから見れば何でもないものだ。
それでもだ、ハールーンは何故かだった。自然と笑顔になりこう言った。
「不思議だ、こうして前にするとな」
「召し上がられたくなりましたか」
「それだけではない」
イマムにも笑顔で答える。
「懐かしい感じがする」
「そうですか、それではです」
「見ているだけでなくだな」
「はい、召し上がられて下さい」
是非にという言葉だった。
「これより」
「ではな」
ハールーンも応えそうしてだった、その煮豆やチーズ達を食べた。すると。
食べてだ、彼はそれだけでだった。涙を流しそうになって言った。
「これだ、私が食べたかったのは」
「やはりそうですか」
「何時何処で食べたかわからない」
「それでもですね」
「まさにこれだ」
ずっと食べたいと思っていたものはというのだ。
「最高の味だ、巡り会いたかったな」
「そうだと思ってです」
「それでか」
「この朝お出ししました」
「そうだったのか、だが」
「それでもですね」
「何故このメニューだとわかったのだ」
ハールーンは笑顔で食べつつだ、イマムにいぶかしげなものも見せて尋ねた
「一体」
「はい、これはです」
イマムはハールーンに対して答えた、それも確かな声で。
「実は旦那様が幼い頃に召し上がられたもので」
「私のか」
「父がよく出していたものです」
「そなたの父ケシムが」
「そうだったものです」
「それはわかった、しかし」
ハールーンは煮豆やチーズをさらに食べつつイマムに問うた。
「これはどれも普通のものだ、しかもだ」
「調味料や香辛料はですね」
「今のものとは違う」
現在のそれではというのだ、美食家だけあって彼はそうしたこともわかるのだ。
「かなり前の、四十年以上は前の」
「この家で使われていたものですね」
「そうだな」
「はい、それをあえて使ってです」
「作ったものか」
「そうです」
「何故そうしたのだ」
そうした旧いタイプの調味料や香辛料を使ったかというのだ。
「一体、この素朴な献立といい」
「全ては原点だからです」
「原点?」
「はい、旦那様の味覚の」
それであるからだというのだ。
「だからです」
「あえてこの献立にしてか」
「調味料や香辛料も昔
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