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真田十勇士
巻ノ百九 姉妹の絆その三

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「だからな」
「決してですね」
「せぬ」
 こう言うのだった。
「この幕府はな」
「だからですか」
「大坂から出て茶々殿が江戸に入られるか、いや」
「いやとは」
「大坂から出てくれるならな」
 それならばというのだ。
「幕府としてはな」
「よいですか」
「よい、しかしな」
「このままですち」
「我等もどうしようもない」
 幕府としてもというのだ。
「大坂から出てくれねば」
「では」
「お主からも頼む」
 秀忠の方からお江に言った。
「お主の上の姉君であるしな」
「畏まりました」
「頼むな」
「姉様の為なら」
 お江も必死だった。
「憎くない、いえ」
「愛おしいな」
「はい」
 そうした相手だというのだ。
「ですから」
「うむ、ではな」
「何としてもです」
 こう秀忠に誓った。
「豊臣家を」
「あの家には千も嫁いでいる」
 二人の間の最初の子であるこの姫もというのだ。
「だからな」
「尚更ですね」
「二人の間に子が生まれれば」
「豊臣家の次の主ですね」
「そうもなるからな」
 このこともあってというのだ。
「わしも豊臣家は滅ぼすつもりはない」
「大坂さえ出られれば」
「国持大名、石高も高くしてな」
「官位もですね」
「高いままにしてな」
「遇する」
 幕府の中でというのだ。
「別格の家としてな」
「有り難きお言葉」
「うむ、しかし気になることが一つある」
「と、いいますと」
「右大臣の官位じゃ」
 これのことだった、秀忠が今度言ったのは。
「高い官位じゃな」
「はい、非常に」
「あの若さでじゃ」 
 元服するかしないかという歳でというのだ。
「右大臣はあまりにも早いな」
「官位が進むのが早いのは」
「よくないな」
「不吉と言われていますね」
「関白殿もな」
 秀次のこともだ、秀忠はお江に話した。
「あの様になってしまった」
「そうでしたね」
「やはりどうしてもな」
「官位が進むのが早いのは」
「早く育つ魚な早く食われる」 
 食われる様な大きさになってだ。
「これは鯛も鰻も同じこと」
「確かに。魚も大きくなるのが早ければ」
「早く食われるな」
「そうなります」
「生き急ぐという言葉もあるからな」
 秀忠はこの言葉も出した。
「だからな」
「お拾殿の官位が進むのが早いことも」
「気掛かりじゃ、父上もどうかと思われておる」 
 秀頼のこのことはだ。
「それをな」
「茶々姉様はですね」
「わかっておられぬ、朝廷に金や銀を送り必死に働きかけておられてじゃが」
 銀よりも金だ、秀吉の好みで豊臣家は金の方を多く持っていてそれは今も変わっていないのだ。
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