最終話 おとぎ話と罪の終わり
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年を慮るその言葉に、彼は絞り出すような声で答えていた。
「ね、覚えてる? 去年、約束したこと」
「え? ――あぁ、もちろん。忘れたことなんてない」
そんな彼を、元気付けようと。少女は明るく振る舞い、かつて交わした約束に触れる。彼女の問い掛けに応える青年の眼は、微かな光を灯していた。
「……また、2人で一緒に」
「その時は、例の恩人さんも呼ぼうね」
「え……?」
「えと、ね。その人のこと、あなたからいっぱい聞いて……思ったんだ。……その方が絶対、賑やかになるでしょ。きっと、楽しいよ」
「……」
必ず彼は目を覚ます。そう励ますように、彼女は「恩人」が眠りから覚めることを「前提」とする予定を口にしていた。
「……賑やかだろうな、確かに。だが、それはダメだ」
「え……そ、そうかな」
「あぁ。――君と2人きりになれないのは、困る」
「……〜っ、もうっ!」
そんな少女の、不器用な心遣いを前にして――青年は口元に手を当て、くすっと笑みを零す。そして悪戯っぽく笑い、彼女の頬を赤く染めた。
その様子を、慈しむように暫し見つめた後。青年は少女から視線を外すと、海の向こうを見遣る。遥か遠くを見つめるその眼差しは、大海の彼方にある異国へと向かっていた。
――正しくは、その地で暮らしているであろう、かつての同志へと。
(……パーネル……さん。俺はずっと、ここで待ち続けます。あなたが、還る日を。彼が、目覚める日を……)
◇
少女を、彼女の自宅である車庫まで送った後。青年は愛車を走らせ、ワシントン大学病院へと身を寄せていた。
すでに空は黄昏時を迎え、黄金色の景色がシアトルの街並みを艶やかに染めている。その景色を廊下の窓から見遣りながら、青年は携帯で自分の執事と通話していた。
「――あぁ、わかってる。明日は五条橋グループとの会食だろう。ちゃんと8時までには帰るさ、いちいち心配性なんだよ。うん、じゃあな。アルフレッド」
会社の命運を預かる自分を案じる、執事の小言にため息をつき。青年は携帯を懐に収め、ある病室を目指す。
「ったく……ん?」
そして、その目的地が目に入った――時だった。
彼が向かおうとしていた病室から1人の女性が姿を現し、その場を後にしていく。彼女が青年に背を向ける寸前、彼はその横顔を目にしていた。
(あの人は……)
青年は、彼女の顔には見覚えがある。昨年の12月、彼の「恩人」にナンパされていた女性だ。
あの時は手厳しく拒絶されていたはずだが……どうやら、見舞いに足を運んでいたらしい。あれからも、「彼」との交流は続いていたというのか。
――そんな新事実に瞠目しつつも、青年は気を取り直し病室のドアを開く。
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