第6話 受け継がれる覚悟
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んでいる。
快復が難しいとされるほどの精神ダメージを負い、意識を失っている彼は半死半生の身であり――いつ目覚めるかの目処は、全く立っていない。
数ヶ月も経てば自然に快復するかも知れないし――このまま、永久に目覚めないかも知れない。それは即ち、正真正銘の「死」を意味する。
その結末はキッドの胸中に、深い影を落としていた。
あの命令に従ったばかりに――否。命じられたのをいいことに、ディアボロトの恐怖に負けて逃げ出したばかりに。
――あの事件以来、自分をそのように責め立てない日はなかった。そんなキッドにとって、トラメデスのことを言及されるのは古傷を抉られるようなものである。
見えない傷を切り裂かれ、その痛みに言葉を失うキッド。そんな彼に、アレクサンダーはさらに言葉を畳み掛けた。
「私は言うなれば、鉄砲玉に過ぎん。それは、もう失うものがない空虚な者にしか務まらない役割だ。未来ある君にだけは、その道を歩ませるわけにはいかん」
?偽りない、真摯な眼差し。その瞳に射抜かれ、キッドは反論を封じられていた。そんな彼を暫し神妙に見つめた後――アレクサンダーは、過去を懐かしむように天井を仰ぐ。
「そう、約束したからな。……あいつと」
「……先任っ……!」
――それは、殺し文句だった。
そう言われてはもう、どれほど望もうと、あのギルフォードに再び挑むことはできない。これ以上駄々をこねれば、今度こそトラメデスの献身を踏み躙ることになる。
それだけは、できなかった。
打ちのめされたキッドは、数歩引き下がると……苦々しい表情で、アレクサンダーを見つめる。
そんな彼と暫し視線を交わし――やがて、オールバックの青年は無表情のまま目を背けた。
「あなたは……卑怯だ。パーネル捜査官」
「そうだな。……だから。君のその怒りも、憎しみも、悲しみも全て――この私が、貰い受ける」
表情は見えないが――そう語る彼の言葉は、確かな決意と覇気を纏っていた。聞く者を奮い立たせる、気勢に溢れたその声色は……小さな呟きでありながら、キッドの精神を圧倒していた。
――そして、この日からさらに数ヶ月が過ぎた、2037年5月。
アレクサンダー・パーネルは日本へと渡り……その東洋の地で。己の運命を変える少年との、邂逅を果たすのだった。
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