第6話 受け継がれる覚悟
[7/8]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
、彼を泳がせる方針に変わったのである。
――だが。その捜査官に選ばれたのは、実戦経験のあるキッド・アーヴィングではなかった。
◇
「……なぜ、ですか」
――2037年1月。
「RAO」事件の事後処理に追われるまま新年を迎えていたキッド・アーヴィングは。
「今回の件は、他の事件とは比にならない危険性を孕んでいる。成功率を僅かでも高めるために、元デルタフォースの私に白羽の矢が立った……ということだろう。他のサイバー捜査官はあいつの二の舞を恐れて、尻込みしているようだしな」
自分がデスクワークに奔走している間に、改造手術を終え日本に発つ準備を終えていたアレクサンダー・パーネルの元を訪れていた。
FBI本部のある一室にて――いきり立つキッドの方を一瞥もせず、コンピュータと向き合いキーボードを叩くオールバックの青年。その横顔を覗き込みながら、キッドは声を荒げる。
「しかしあなたは元々、後方の解析班に属する分析官だ! 我々捜査官より、VR空間での活動に慣れているとは思えません!」
「辛辣だな。それもあいつの教えか?」
「……ッ! 奴は、先任の仇です。今からでも改造手術は間に合う、俺にやらせてください! 危険など元より承知、刺し違えても構わない! それに一度奴と戦った俺の方が――!?」
静かにキーボードを叩き続けるアレクサンダーに、キッドはさらに詰め寄る。
だが……彼の碧眼と視線を交わした瞬間。そこから続くはずだった言葉は、失われてしまった。
復讐に燃える若人すら圧倒する、深淵の如き深さの――怒り。悲しみ。憎悪。その負に満ちた感情を滲ませる眼が、彼を黙らせていた。
「――君には、私より大切な役目が残っているだろう。この事件を記録し後世に残せるのは、死線を潜り抜け現実に還ってきた君だけだ」
「し、しかし!」
「それに、君には守るべき大切な人がいるのだろう? あいつから聞いている」
「……!」
こちらの胸中を見透かす、アレクサンダーの一言。その透明な刃を胸に受け、キッドは口ごもる。
「……この任務は、決死隊も同然だ。対電脳チップと解析班のバックアップがあろうと、向こうがそれ以上のプログラムを仕組んでいないという保証はない。最悪、こちらの下準備など一蹴され、私もあいつと同じ道を辿る可能性もある」
「……っ」
――あの戦いの後。
騒動に巻き込まれていた全プレイヤーが脱出に成功し、キッド自身も逃げおおせた一方で……数十分に渡り、ディアボロトの拳が描く「悲劇」に晒され続けていたトラメデスは。
精神を破壊する激痛を長時間、かつ断続的に浴び続けたことで「廃人」となり、昏睡状態に陥っていた。現在はワシントン大学病院にて、覚めない眠りに沈
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ