第4話 守るべき人
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「……ふぅ」
ログアウトした先に広がる、見慣れた自室の天井。そこから視線を、窓の外に向けながら――現実に帰還したキッドは、気だるげにベッドから身を起こす。
音一つ立たない最高級のベッドから立ち上がる彼は、窓の前に立つと、そこからワシントンの夜景を見下ろしていた。
アーヴィングコーポレーション本社の超高層ビルは、この大都市の中においても際立った存在感を放っている。
「坊っちゃま。例の事件の調査、大変お疲れ様でした」
「……お疲れも何も、まだ何一つ解決していない。俺は、まだ……何もできてはいないさ」
するとそこへ、礼服に身を包む白髪の老人が現れた。執事らしきその男性は、淹れていた紅茶をキッドに差し出すと、恭しく頭を下げる。
キッドはそれを受け取り、夜の街並みを眺めながら紅茶を嗜んでいた。アルフレッドと呼ばれる執事を一瞥もせず、その瞳は憂いを帯びた色を湛え、このワシントンを見つめ続けている。
「それと、俺はもう21だ。いい加減『坊っちゃま』はやめろ」
「……そうでしたな。これは、失礼しました」
そんな主人の背を、温もりが滲む眼差しで見つめつつ。アルフレッドは静かに踵を返し、部屋から立ち去っていった。
やがて扉を閉める物音から、この部屋にいる人間が自分だけであると判断し。キッドは、手にした携帯に指を滑らせる。
「……先任。ログアウト後、特に変調はありませんでしたか?」
『あぁ、こっちは平気だ。お前も元気そうでよかったよ。あの嬢ちゃん達も、ちゃんとログアウト出来たようだしな……』
「そうですか、よかった……。この事件の被害は……これを最後にしたいものですね」
『あぁ、まぁな。だが、連中の動きが読みきれない以上、そいつはちと難しい。何にせよ今は、解析班の情報を待つしかないぞ』
「……」
電話の向こうから響いてくる、いつも通りの声。それに安堵する一方――キッドは敵の姿を視認しておきながら、逃げるしかなかった自分の至らなさに、唇を噛み締めていた。
『……ま、俺達はそれに備えて英気を養うとしようぜ。お前、確か明日は非番だったろう。学校帰りの彼女でも誘ってやれよ、いいガス抜きになると思うぜ』
「また適当なことを……」
『適当じゃねぇさ。メンタルってのは、あのエリザベスの嬢ちゃんがそうだったように、戦いに大きく響くんだよ。勝ちたいなら、勝ちたくなる精神状況を作っときな』
「……」
そんな彼の感情を、電話越しに読み取っていたのか。トラメデスはからかうような声色で、キッドにベサニーへの誘いを促していた。戦いの中で荒んだ彼の心を、癒しに浸すために。
キッドはそんな先任の言葉を、表面上は受け流しつつ。冗談を交えつつ、真っ当な論をぶつけてきた彼の話を、神妙に思い返していた。
(…
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