第4話 守るべき人
[2/7]
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
…勝ちたいなら、勝ちたくなるように……か)
――そして、翌日。
週末を前にして、キッドは「彼女」に気持ちを伝えることに決めた。
必ず勝って生き延びて、その先にある答えを知るために。知りたい、という想いを、力にするために。
◇
――キッド・アーヴィング。アーヴィングコーポレーションの跡取りとして生を受けた彼は、幼少の頃から英才教育を受けてきた。
父の期待に応えなくては。周囲の期待に応えねば。その重責が、寡黙な今の彼を作り上げてきたのだろう。
心を許せる友を得られず、それゆえ自身へのプレッシャーに対する共感を得ることもできず。彼を賞賛する者達は皆、彼の「外側」にいた。
それでも構わない、これも跡取りとしての運命。そう受け止めて生きていくことができれば、彼はある意味では幸せだったかも知れない。
だが。それを受け入れるには、彼はまだ若過ぎた。
理解者を得られない中、荒んで行く彼は夜中にバイクを乗り回すようになり。俗に言う「不良」と呼ばれる立ち位置に身を落とすようになった。
――「Workshop Hopkins」に身を寄せるようになったのは、その頃からである。その時に彼は、ベサニー・ホプキンスとの出会いを果たしていた。
赤毛の髪という理由から、周囲に疎まれているという彼女。その背景を知り、孤独な人間として共感を覚えていたのかも知れない。
キッドは彼女との関わりを通じて、徐々にではあるが心を落ち着けるようになり、不良から遠退いて行った。彼女はいつしか、彼の「内側」に住み着いていたのである。
……その後、大学を飛び級で卒業してFBI捜査官となった今も、「Workshop Hopkins」との交流は続いている。
誰からも色眼鏡で見られてきた彼にとって、「DSO」事件のことがあっても変わらずにいてくれた彼女は、唯一無二の存在なのだ。
「……ベサニー……」
どんな事件が起きても、自分がどんな目で見られていても、変わらず慕ってくれる少女。そんな想い人の姿を脳裏に浮かべ、キッドは「スクランブラー・sixty2」を走らせる。
白い雪でデコレーションされたアスファルトの上を、鋭いラインを描くバイクが駆け抜けて行った。
――その背後では。いつか彼女を乗せる時に備えて新調したマフラーが、穏やかに息を吐き出している。
◇
(……ど、どど、どうしよう)
学校の帰り道。いつものように灰色の1日を終え、ベサニーは帰路につく――予定だった。昨日の夜までは。
だが昨晩、キッドから食事の誘いが来てしまい、「たまには羽を伸ばせ」と父に促されるまま……彼の行きつけである高級レストランに来てしまっていた。
(わ、わぁ……やばいやばい、どうしようあたし……!
[8]前話 [1]次 [9]前 最後 最初 [2]次話
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ