第2話 仮想世界の戦火
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(……キッド、さん……)
自分にとっての王子様がいないわけではない。だが今では、その王子様に迷惑を掛けたくない、という気持ちの方が強かった。
――知れば、彼はきっと助けてくれる。だが、自分一人のために多くの生徒に牙を剥くようなことになれば、人々はさらに畏怖の視線を彼に向けるだろう。その視線を払拭するために、彼は戦っているというのに。
だから自分には、どうにもできない。ただ、じっと耐えるより他ないのだ。
◇
「……はぁ」
その日の夜。
学校から帰った後、店の手伝いで1日を終え――シャワーを浴びたベサニーは、狭い自室のベッドに身を投げていた。古びたベッドは主人の体重に軋み、ギシギシと悲鳴を上げている。
(……ベ、ベッドがボロいだけだから! あたしが太ったわけじゃないからっ!)
誰に対する言い訳なのか、ベサニーは胸中でそう叫びつつ、枕元に置いていたヘッドギアに手を伸ばした。
赤と白で塗装された、そのヘッドギアの名は――「ヘブンダイバー」。アーヴィングコーポレーションが誇る、世界最高峰のVRゲーム機である。
3年に渡り、こつこつと貯めて来た貯金をはたいてようやく買えた宝物。ベサニーは愛おしげにそれを抱え込むと、「わくわく」という楽しさに満ちた表情を浮かべ、頭に被せた。
「……」
――すると。彼女は、自室の壁に貼られた1枚のポスターに目を移した。
そこには、煌びやかなドレスを着こなす金髪の美女が映されている。……今をときめくハリウッド女優の、「エリザベス・エッシェンバッハ」だ。
艶やかな金髪に、そばかすなどとは無縁の美肌。ベサニーには一生届かないものを全て備えた、理想の女性像そのものである。
(……リアルのあたしは、赤毛でそばかす顔の地味女。キッドさんになんか、一生掛かっても釣り合いっこない。だけど、あの世界なら……)
そんな彼女を写したポスターを、羨望の眼差しで眺めつつ。ベサニーは、仮想空間へのフルダイブに臨む。
――ずっと前から一目惚れだった、青年とのひと時を思い描きながら。
「……ログインっ!」
そして、ゲームへの接続スイッチとなる台詞を口にして。彼女の意識は、仮想空間へと転送されていく。本当の身体を、この現実世界に残して。
◇
「……ログインしてから、かれこれ6時間になるが……まだ例の現象が起きている気配はない、か」
「ずっと仮想空間に張り付いてるってのも、これはこれでしんどいねぇ。世のゲーマー諸君には頭がさがるぜ」
――その頃。
「RAO」のマルチプレイにおける拠点である、砂漠のキャンプ地。その中でキッドとトラメデスは、プレイヤーに扮して調査を行っていた。
米兵の兵
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