最終話 白き献花
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「そう、ですか……」
カプチーノのカップを見下ろす青年。その横顔を、ウェイトレスは暫し神妙に見つめていた。
痛みや苦しみに苛まれ、それでもなお前に進もうと足掻く男の横顔。それは優しげでありつつも、言い知れぬ力強さを放っていたのである。
「……ところで。一つ君に伺いたい話があるのだが」
「は、はい」
そんな彼に、不意に声を掛けられ。ウェイトレスは思わず、上擦った声を漏らしてしまった。そして青年は、たじろぐ彼女を見上げ――新たな道を見出す一言を、告げる。
「このお店、従業員は募集しているかな」
◇
――2037年7月。
終業式を明日に控えた五野高は、すでに夏休みムードが濃厚になりつつあった。それに合わせ、生活指導の教師や生徒会も目を光らせるようになり……彼らの注意が、ある1人の少年に向けられるようになっていた。
「全く……浮かれすぎて階段から転げ落ちるとは、なんたる体たらくだ」
「Rって頭は良くても基本ドジだよな」
「契約不履行のバチが当たったんだね。夏休みにはまだ早いんだねっ」
「あぁあもうっ! わかってる! わかってるよっ!」
飛香R。彼は、伊犂江優璃の誕生日パーティが開かれていたあの日、自宅の階段から転げ落ちた……ということになっている。彼が体のあちこちに包帯を巻いた姿で登校してきたことで、生活指導は夏休みまでの「締め上げ」を強化するようになっていた。
そういうこともあり、昼食中にRは信太達からお小言を頂いているのである。……この頃には当然のように、R達の集まりに大雅が居座るようになっていた。
「ねぇ……ほんとに痛まない? 大丈夫?」
「飛香さん、もしよろしければ父の会社に掛け合って最新鋭医療器具を……」
「い、いやいやいや、ほんとに大したことないから!」
一方で、優璃と利佐子は純粋にRの身を案じて気遣うようになっていた。Rはそんな彼女達の優しさに感謝しつつも、値段が想像もつかない解決策を避け続けている。
もしそんな高価過ぎるモノを使われたら、恐ろしくて怪我どころではないからだ。
「もう……飛香君も夏休みだから気持ちはわかるけど、もっと気をつけないとダメだよ? ほんとに、打ち所が悪かったら死んじゃうんだからね?」
「そうですよ、飛香さん。あなたの怪我を知った時のお嬢様ときたら、それはもう大変だったのですから。あなたには特に、夏休み中の過ごし方について気をつけて頂かなくては」
「ちょ、ちょっと利佐子っ!」
あまり掘り返されたくない情報であるらしく、優璃は顔を赤らめ利佐子の口を塞ごうとする。そんな彼女達を一瞥しつつ、Rは窓の外に目を向けた。
「……」
いつもと変わらない、快晴の青空。真夏の日差しが教室に差し込み、窓際の席を照ら
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