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Darkness spirits Online
最終話 白き献花
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送り――ブラウンの髪をオールバックにした青年は、その碧い瞳に憂いを帯びる。

 生きていれば(・・・・・・)、妹もあれくらいの年頃になっていただろうか……と。

(……なら私は、祈るのみだ。あのような幼い子の未来が、途絶えないことを……)

 青年の眼はやがて、窓の外――青空の彼方へと向かう。天上へ導かれた最愛の妹の、幸福な転生を祈るように。

 ――東京都内に位置する、とある森の片隅。その穏やかな自然に囲まれた小さなカフェは、「COFFEE&CAFEアトリ」という看板を掲げていた。
 ウッドデッキや自然風景を重視した景観などが人気を呼び、20年以上続いている「穴場」のカフェとして知られている。
 ……場所がわかりにくいせいもあり、アルバイトが中々集まらないことが経営側の悩みなのだが、その辺りはあまり知られていない。

「お待たせしました、カプチーノです」
「あぁ、ありがとう。君が淹れてくれるコーヒーはいつも、安らいだ気持ちにさせてくれるね」
「いえ……私なんて、まだまだ未熟ですから」

 やがて、ふわりとした笑みを浮かべて、ウェイトレスの少女がカプチーノを運んで来る。それを受け取り、青年も優しげに微笑んだ。
 そんな彼を、ウェイトレスはまじまじと見つめる。

「……」

 平日の昼前であるこの時間帯には、客はあまり来ない。いるとすればここ最近、毎日のように通うこの青年くらいのもの。
 ――彼女としては、それが気掛かりだったのだろう。つい、聞いてしまったのだ。

「……よく、この時間帯に来られますけど……夜の時間帯にお勤めされていらっしゃるのでしょうか」
「……」
「……あ」

 ほぼ顔馴染みに近い関係になったからこそ、不意に口をついて出てしまった。ウェイトレスは言った後に、地雷を踏んでしまったと悟り――彼女にしては珍しく、顔を赤らめる。

「……ご、ごめんなさい」
「いや、いい。実際、仕事が見つからなくてね。焦っても仕方ないから、ここで気を休ませて貰っているんだ」

 自分の不甲斐なさを笑うように、青年は苦笑を浮かべる。彼はカプチーノを手に取ると、再び窓の外に視線を移した。穏やかな風に靡く野花が、その碧い瞳に留まる。

「……ここは、本当に居心地がいい。昔住んでいた、故郷の家を思い出すよ」
「……帰られないのですか?」
「私自身が、捨ててしまったからね。帰る家も居場所も、私は全て捨ててしまった」

 聞いてはいけなかったか――と、ウェイトレスはバツの悪そうな表情を浮かべる。そんな彼女を一瞥する青年は、いつしか妹の面影を重ねるようになっていた。

「……だからこそ、この先の未来に得るものもある。失う痛みを知ったからこそ……守りたいという願いが生まれる。私は、そう信じているよ」
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