第22話 永遠の十字架
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を揺さぶっていく。彼の心を遠ざけるために、望まぬ暴力を振るい続けているというのに……その彼は、なおも近寄ろうとしているのだ。
なぜここまで拒んでいる自分に、なおも手を差し伸べるのか。なぜ、このような悪人のために心を砕くのか。
――なぜ、自分を止めるために、ここまで戦えるのか。
「……今日は、だめだ。だめなんだよ、アレクサンダー……さん!」
「……何が、駄目だと言うんだ。今日の何が、駄目だと言っているんだ、君は!」
「誕生日なんだよ! ……今日は!」
その問いに、答えるように。Rはしゃがれた声のまま、気力を絞り出すように叫ぶ。言い放たれた言葉は、アレクサンダーの聴覚を通して、その胸中へと染み込んで行った。
(……誕、生日……)
――誕生日。そう、ソフィアの命日となってしまった、あの日。Rがこれから先ずっと、幸せな日々が続いていくのだと信じていた、あの日。
伊犂江優璃という少女にとっては、それが、今日なのだ。
「伊犂江さんは、信じてる……。今日は、みんなで楽しく過ごして。明日、いつもみたいに学校に来て。夏休みを、楽しんで。来年も、再来年も、ずっと幸せに暮らしていける……って」
「……」
「きっと、蟻田さんだってそうだ。オレだって、そうだよ。みんなもう、怖い夢から覚めたんだ。もう、終わったことなんだ! だから……!」
過去に纏わる復讐よりも、今ある幸せと平和のために。そう謳うRを見下ろし、アレクサンダーは苦々しく貌を歪める。
自分に、そんな風に生きていける強さがあったなら――どれほど、幸せになれただろうか……と。
「では、君は許せるのか!? ソフィアを死に追いやった原因に手を貸した、あの伊犂江グループを!」
「わからない……! だけど、わかってることも、ある! あなたは、本気で会長を殺すつもりなんかないって!」
「……!」
気づけばアレクサンダーは、己の感情さえも操れず、Rに思うがままの心をぶつけていた。その気迫を真っ向から浴びせられながら、彼は全く引き下がることなく――視線を、重ねる。
すでにRの眼は焦点を取り戻し、アレクサンダーの揺れる瞳を捉えていた。
「本気で会長を殺すつもりなら、そもそもこんな場を設けるはずがない。オレに報せることなんて、ない。あなたは、ただぶつけたかっただけなんだ。自分の気持ちを、誰かに」
「……君に、私の何がわかる。ソフィアを死に追いやっていながら、新しい居場所を見つけ、過去を捨てようとしている君に、一体何がッ!」
「わかるさ! あなたも、ずっとずっと辛かった! 辛かったから、任務に逃げたんだ! あの事件で、アメリカから逃げたオレと同じだ! だけど……あなたの側に、信太と俊史はいなかった。何があっても、側にいてくれる誰かが、いなかっ
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