第21話 罪と罰
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して再び、敵うはずのない戦いへと飛び込んでいく。今まで押し殺してきた「感情」に敗れた彼を、もう一度食い止めるために。
(だって、今日は……!)
何一つ真実を知ることなく、彼が守り抜いた日常を謳歌する少女。遥か遠くのビルで咲き誇る、その笑顔を背にして。
◇
――同時刻。東京から約14時間の時差がある、アメリカ合衆国ワシントンでは。
(……朝食の時間までには、終わりそうだな)
朝陽が差し込むオフィスの一室で、一人の青年がコンピュータと向かい合っていた。
大都市の景観を一望できるその部屋で、キッド・アーヴィング捜査官は朝早くから報告書の仕上げを行なっている。
(パーネル捜査官……あなたは、本当に……)
FBI――こと、連邦捜査局本部に身を置く彼は、忙しなくキーボードを叩き続けていた。遥か上の階で自分の報告を待ち続けている、上司達のために。
だが当の彼自身は、目の前で作成している資料よりも……自分の前から姿を消した、かつての戦友のことに意識を向けている。自分にバッジを託し、復讐に身をやつした男に。
(……確かに、この報告書で全ての悪は裁けないだろう。俺だって、そんなことはわかっている)
――アレクサンダーの苦しみをよく知っていた彼は、その凶行を阻止することが出来なかった。伊犂江グループに買収されたFBIの捜査では、真実を伝えることはできないと、知っていたから。
せめて自分に出来ることがあるとすれば、それは「検閲」が入ると知りつつも報告書を完成させ、一つでも多くの正義を完遂することのみ。
自分の全てを捨ててでも悪を裁く、というアレクサンダーの道とは違えることになるが……自分がこれをやらねば、ギルフォード事件に幕を降ろす人間がいなくなってしまう。
ゆえにキッドはただ、この報告書を完成させることしかできなかった。
(それでも、俺は無意味とするわけにはいかないんだ。この事件に巻き込まれた人々と、解決のために戦い続けて来た仲間達のためにも……)
それしか、もう自分に出来ることなどない。それが、彼の結論。
――では、あったが。
人知れず心の奥底で、彼は願っていた。憎しみや悲しみの矛先を求め、もがき彷徨うアレクサンダーを、止めてくれる誰かが現れることを。
◇
――伊犂江グループ本社ビルで開かれている、伊犂江優璃の誕生日パーティ。その席に招かれた有名企業の御曹司達は、可憐にドレスアップされた姫君に群がっていた。
華やかなパーティ会場の水面下で繰り広げられる、日本最大級の資産を巡る争奪戦。その一端を垣間見つつ、優璃は今日も、自分を狙う男達をあしらい続けていた。
「優璃様、今宵は大変ご機嫌麗しく……」
「16歳の誕生日、大変にめでたいです
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