第20話 終わらない憎しみ
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うことなく、そう、思っていた。
震えるその手に握られた、携帯に映されたメールを見るまでは。
「……なん、でっ、こんな……!」
わなわなと肩まで震わせて、Rはベッドから飛び上がるように立ち上がった。そのままクローゼットを乱暴に開き、Tシャツの上に漆黒のライダースジャケットを羽織る。
血相を変えて階段から駆け下りる息子を、母が目撃したのはその直後だった。
「ひ、R!? ちょっと、どこに行くのよ!」
「……ちょっと出てくる! すぐ戻るから!」
その険しい表情を見れば、ただならぬ事態であることは容易に察しがつく。それがわからない母ではない。
だが真相を問う暇もなく、Rは突き破るように玄関を開けて外へと走り出していった。隣にある車庫に駆け込んだ彼は、愛車「VFR800X」に颯爽と跨る。
キャンディープロミネンスレッドで塗装された、鋭利なフォルムを持つバイクが――主人を乗せて、摩天楼が並び立つ暗夜の街道を目指して走り始めた。
「なんでだ……! アレクサンダーさん、どうしてッ!」
フルフェイスのヘルメットに険しい貌を隠して、彼はアスファルトの上を駆け抜けていく。悲痛な声を漏らすその口元は、酷く歪んでいた。
◇
――それから、約20分。
夜景に彩られた街道を進む、車の群れの中から……Rは、追い求めた人物を見つけた。青いジャケットを端正に着こなしている、長身の青年である。
「……!」
摩天楼に囲まれた交差点を、鮮やかなカーブを描いて曲がる一台のバイク。ミラーコートスパークブラックで塗装された車体が、街灯の光を浴びて妖しい輝きを放っていた。
「カワサキ・NinjaH2」。そのバイクに乗っている青年を追うように、RもVFR800Xを滑らせた。
――すると。Rに気づいたのか、カワサキ・NinjaH2に跨る青年は、一瞬だけ首を横に傾け……進路を変え始めた。
「……」
その意図を悟るように、Rはスゥッと目を細め追跡していく。やがて青年を乗せたカワサキ・NinjaH2は、伊犂江グループ本社ビル――から、数十メートルほど離れた駐車場へと進入していった。
そこは車もほとんど停まっていない閑散とした空間であり、都心の一部でありながら静寂に包まれている。二人が駆るバイクのエンジン音だけが、夜空まで響いていた。
この場にたどり着いた青年は、後方を見遣ると同時に停止し、車体を90度まで旋回させる。それを受け、Rもバイクを停めて青年と顔を向かい合わせた。
互いにヘルメットで顔を隠していた二人だったが――すぐに彼らは、示し合わせたかの如く、同時に素顔を露わにする。
「……」
哀しみとも、怒りともつかないRの表情とは対照的に、青年……こと、アレク
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