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Darkness spirits Online
第12話 赤と青、剣と剣
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 ――伊犂江優璃。
 日本有数の大企業「伊犂江グループ」の令嬢として、彼女はこの世に生を受けた。

 東京湾の海を一望できる豪邸。各所に設けられた別荘。常に付き従う使用人。
 この現代日本において、これほどのものを生まれながらに備えていた者など、数える程もいない。

 彼女は生まれたその瞬間からずっと、特別であった。

 望めば、ありとあらゆるものが手に入る。そんな彼女には当然のように、有力者の子息が群がってきたのだが――彼女は、誰とも婚約を結ぶことなく今日を生きている。
 ――その理由は、彼女が愛するものにあった。

 幼い頃から花をこよなく愛する彼女は、幼馴染の利佐子と共に花畑や公園を散歩することを好み――その噂を聞きつけた男達は、挙って花束を送っていた。
 いずれも品種改良を重ね、鮮やかに彩られた高級品ばかり。花を好むのなら、これに興味を示さないはずがない。それが、彼らの見立てであった。

 ――しかし、思惑通りに彼女との関係を深められた男性は、一人としていない。
 それは、彼らが送りつけた花が原因であった。

 本来持っている美しさより、見た目の色鮮やかさのみに拘って「造られた」花々は、彼女を笑顔にさせるどころか、その貌に悲哀の色を滲ませてしまったのである。

 彼女が愛するのは煌びやかに造られた花ではなく、野に咲く自然の花々。それを知らない男達は、優璃を手に入れるためだけに花に手を加え――それが叶わぬと知ればゴミとして廃棄していた。

 ある時、優璃は偶然にもその光景を目にしてしまったことで、自分に近づく男性に猜疑心を抱くようになったのである。
 ――甘い言葉で自分を誘う男達は、花を傷付け、最後には捨ててしまう。幼い少女の眼に映されたその瞬間が……彼女の心を、男というものから遠ざけてしまったのだ。

 それから、数年。2036年の春。
 中学三年の頃に――彼女は、飛香Rと出会った。

 顔立ちは整っているものの、大人しく自己主張も少ない彼はクラスでは目立たない存在であり。友人は所謂「オタク」と蔑まれている2人の男子くらいのもので、それ以外に彼を気にかけるクラスメートはほとんどいなかった。
 数少ない友人と別れた後、誰もいない校庭の片隅で、独り花壇の手入れを続ける少年。そんな自分を見ている人間がいるなど、彼自身思いもよらなかっただろう。

 男子の注目を集める「学園の聖女」が陰ながら、花を世話する自分を見ているなど。

 ――学園というコミュニティにおいて、ヒエラルキーの上位は基本的にスポーツに明るい生徒が占めている。成績が優秀であることを売りとする生徒も少なからず存在はするが、やはり花形は体育会系だ。
 そんな界隈から遠ければ遠いほど、ヒエラルキーは下降して行く。一人で黙々と花壇を世
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