第10話 宝剣の片割れ
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「……おや。今日は、先客がいらっしゃるようですね」
艶やかな声を響かせ――ある一人の青年が現れた。
美術館から飛び出て来たかのような煌びやかな鎧を纏う、その青年の登場に……マクセルは露骨に顔を顰める。
「オーヴェル殿……。先日も申し上げたことだが、貴殿にはすでに『宝剣』を渡している。お引き取り願いたい」
招かれざる客に対し、マクセルは諭すような口調で退出するよう言い渡す。だが、オーヴェルと呼ばれた青年にここから出ていく気配はない。
彼がこのイリアルダ邸に来るのは今に始まったことではないらしく、他の者達も「また来たのか」と煙たがるような面持ちだ。
「君はすでに私がルバンターの町で開いた武術大会に優勝して、『宝剣』を得ているだろう。残されたもう一つの『宝剣』は、こちらで新たに所有者を決める」
「力の均衡を保ち、剣の力が暴走せぬようバランスを守るため……ですか? そんなことをせずとも、全て私に任せて頂ければいいのに」
「……もう、いい加減にして。『宝剣』は並大抵の力じゃないの。そんなことしたら、誰もあんたを止められなくなるじゃない。男なら、一本で我慢しなさいよ」
遥か昔から伝わる、イリアルダ家に伝わる秘宝の剣。かつて、人々を苦しめた魔獣を封じ込めた剣と、その魔力に対する抑止力として残された剣。
イリアルダ家は、その二本を家宝の「宝剣」として、代々続いて守り抜いて来た。そんな剣を両方、このオーヴェルという男は手に入れようとしているのだ。
――彼こそ、このシナリオモードにおいてプレイヤーと対を成す「ライバル」の剣士。
本来の筋書きなら、彼が持つ「宝剣」に封印されている魔獣が、彼との決闘を通じて覚醒し……封印を破って暴走することになる。その魔獣との戦いが、所謂ラスボス戦に当たるのだ。
「止める必要など、ありませんよ。この私こそ『勇者』であり、唯一無二の正義なのですから」
自らの力を誇示するように両手を広げ、オーヴェルは交渉を進めようとする。しかし、マクセルに妥協する気配はない。
(……この、人は……!)
そんな膠着状態の双方を前に。Rは一人、「宝剣」を持つオーヴェルの人相に瞠目していた。
――あの新幹線の中。通路の時にすれ違った、オールバックの外国人。その人物が今、オーヴェルとなっていたのだ。
(まさか、この人がオーヴェルなのか……。しかし……なんだ? この、妙な感じは……)
それに加え。Rは彼に対し、言い知れぬ違和感を覚えていた。
ルバンターの町の住民や、スフィメラの町の賞金稼ぎ達がそうであったように、この世界でNPCを演じているのは五野寺高校の生徒達だけではない。恐らくはあの新幹線に乗っていたのであろう一般人達も、大勢この世界に集められている。
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