第7話 月夜の逢瀬
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ちなんですから!」
「悪かったよ。ほら、急にいなくなっちゃったからさ」
「それはっ! ……そうですけど……」
頬を膨らませてプンプンと怒りを表現したつもりでいたネクサリーだったが、どうもRから見ると迫力に欠けるらしい。
怒られている本人は覗きの罪悪感よりも、彼女が無事だったという喜びの方が大きいらしく、苦笑いするばかりだ。
(もう、全く……でも)
それからしばらくした後、ネクサリーはぷりぷりと怒りながらも――神妙に、彼の横顔を見つめながら、帰路につく。
隣を歩く彼の、優しげな眼差し。どこか見覚えのある、その瞳の奥を。
(なんだろう……この、感じ。変だよ……私)
――胸を突く心地よさ。温もり。罪悪感。どれも身に覚えのない感情であり、それら全てがRに向かっている。
その言い知れぬ感覚に、ネクサリーはただ、戸惑う。自分の中で眠る、本当の人格の存在を、知る由もなく。
◇
「……」
――そんな二人を。煌びやかな鎧に身を固めるオールバックの青年が、木陰から見つめていた。彼の手に握られた「あるもの」は、月夜を浴びて妖しい輝きを放っている。
美術品のような鎧といい、気品に溢れた剣といい、長身といい、堀の深い美貌といい。簡素な鎧と剣しか持たないRとは、何もかもが正反対な出で立ちだ。
(……この世界での死は、現実世界での死に直結する。彼がそれに気づいているかは定かではないが……見たところ、今の時点では「不殺」を貫いているようだな)
そんな彼の足元には――縛り上げられた少年達が気絶したまま転がっている。
Rを妬んでいたクラスメート達と全く同じ面相だが、その身は盗賊の戦闘服に包まれている。AIに洗脳され、NPCの盗賊としてR達と戦う予定だった男子生徒達であった。
彼らは突如現れたイレギュラーにより、こうして捕われてしまったのである。本来の役目を、果たすことさえ叶わず。
(……この世界から民間人全員が生還できるか否か。今は……彼に頼るしかない、か……)
そんな少年達を見下ろし、青年は踵を返す。盗賊という、主役からかけ離れた「キャスティング」をされてしまった被害者達を、片手で担ぎ上げながら。
――その表情に。苦虫を噛み潰したような、色を滲ませて。
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