第5話 電脳世界のマリオネット
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このような一幕が繰り広げられていたのである。
プレイヤーの目が届かないようなNPCの一挙一動に至るまで、「生きた人間」の如く一人一人の人格を作り込む。
それが、「DSO」の持つ圧倒的クオリティの由縁であり。それほどのリアリティを追求したからこそ、現実と混同するプレイヤーが続出するに至ったのである。
「……」
――そんな、常軌を逸する「作り込み」から生まれたキャラクター同士のやり取りを。一人の青年が、遠くの林に紛れて見つめていた。
艶やかなブラウンの髪をオールバックにしている彼は、白く透き通った肌を持っている。日本人ばかりが「キャスティング」されている中で、明らかな白人である彼の存在は、この世界で異彩を放っていた。
林の中に身を潜める彼は、剣呑な面持ちでNPC同士の対話を見守っている。その蒼い瞳が電脳世界のマリオネットを、貫くように見つめていた。
窓の向こうで、さも本当の人間であるかのように振る舞っているNPC達。彼らの自然な挙動を、その青年は目を細めて監視していたのである。
(……本来の「DSO」なら、微かに生身の人間とは違う不自然さがあるものだが……今の彼らの挙動には、もうそれすらも窺えない。より完全で、限りなく人間に近しいNPCとなっている。それも……「生身の人間」を洗脳し、各キャラクターの「キャスト」に割り当てていることに起因しているのか)
テイガート。ネクサリー。そのような「人格」を与えられている彼らは、日本の高校生の顔を持っている。
生きた人間に生きた人間を演じさせることで、より完全な「キャラクター」を創出しているのだ。AIだけでは、ここまで精巧に人間に近しいキャラクターは作れない。
(私がこの世界に「ボスキャラ」としてキャスティングされて、もう二日になる。……外部の「解析班」はすでに手を打っているはずだ、私も急がねばならん)
林の中に身を隠す彼は、踵を返すと視線を手元に落とし――その手に握られた「あるもの」を凝視する。
紫紺の塗装に固められた「それ」は、両端から二つのグリップが伸びており……さながら、ゲームのコントローラのような形状だった。
(「奴」が私に気づくのも、時間の問題だろう。その前にこの世界の解析を終え、データを「解析班」まで送らねば……この世界に巻き込まれた民間人が全て、「奴」のオモチャにされてしまう)
唇を噛みしめる青年は「それ」を懐に仕舞うと、足早に歩き出していく。彼の胸中に渦巻く焦りが、その足取りに現れているようだった。
(全ては、この世界の「プレイヤー」が左右することになるだろう。飛香R、君はどう動く……?)
やがて彼は、焦燥の色を滲ませる瞳で空を仰ぎ。まだ見ぬ勇者へと、思いを馳せる。
(……
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