第2話 運命の始まり
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彼を悪く言う者……とりわけ、同じ教師に対しては、厳しく対応しているのだ。
鋭い眼光に射抜かれ、隣に座る肥満体の男教師が縮こまる。
こことは別の車両にいる他クラスの担当である、冬馬海太郎先生だ。
でっぷりと太った体格に禿げ上がった頭皮。首が見えず、頭部と胴体が繋がっているような出で立ちから、「ヒキガエル」と陰口を叩かれている人物でもある。
睦都実に対して恋心を抱いているらしく、隙あらばこうしてアプローチに励んでいるのだが……それが実を結んだことは一度もない。
こうして、バッサリと拒絶されることが日常茶飯事なのだ。
「……しかし、確かにこのままでは無用な諍いにも繋がりかねませんね。彼をよく思わない生徒は、少なからずいるようですから」
萎縮する海太郎を冷徹な眼で一瞥した後。睦都実は、憂いを帯びた眼差しを一人の生徒に注ぐ。
――Rに対し、一際険しい敵意を見せる男子生徒に。
◇
「あいつ……クソふざけやがって……!」
「た、鷹山さん……」
Rに睨みを効かせる生徒達。その中でも、特に強い敵意を抱いているのが――いわゆる不良という部類に当たる男子生徒、鷹山宗生である。
制服を着崩し、髪を金髪に染めたその外見。常に眉を吊り上げ、声を荒げる威圧的な態度。それらを頼りに日々周囲を恫喝して、同級生の財布や女に手を付けてきた彼は、見目麗しい優璃や利佐子にも目をつけていた。
だが、伊犂江グループの身内である優璃や利佐子に容易く手は出せない。力づくでモノにしたくとも、運動神経抜群の大雅という壁もある。
あの柔肌が手に届く距離にいながら、実質的にはどうにもできない。表面上の強さだけで思うままに生きてきた彼にとって、それは生殺しに等しい日々だった。
それでも、二人の近くに立つのが完璧男子の大雅であるなら、まだ諦めはついたかも知れない。だが、妄想の中で毎日のように優璃達を穢していた宗生の眼前では――あのキモオタ三人組の一部である飛香Rが、最も優璃に近しい場所にいる。
本来なら優璃どころか、どんな女にも相手にされないような男子が。自分が生殺しにされている間に、優璃と談笑している。
その現状に向かう激しい憤怒は、グツグツと煮え滾り、殺意にも近しい憎悪へと繋がっていた。
優璃の隣に座り、向かいのRに厳しい視線を向けている大雅も、当然ながら心中穏やかではないのだが――宗生のそれは、大雅以上の熱気を持っていた。近くに座っている不良仲間達が、全員たじろぐほどに。
――そんな、煮え湯のような空気の中で、数時間が過ぎ。
「あ、そろそろ到着だね。楽しみだなぁ……」
「お嬢様、はしゃぎすぎてはいけませんよ」
「ふふっ、わかってるわかってる」
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