第1話 学園のアイドル
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VRMMOとは、明晰夢に近い。
夢の世界であると知りながら、その世界に思うまま入り浸り、その恩恵を堪能することができる。現実の何にも縛られることなく。
それは社会という鎖に束縛された現代の人間にとっては、何物にも代え難い至福のひとときにもなりうる。
五感全てを電脳空間にダイブさせる技術を投入した、初のVRゲーム機「ヘブンダイバー」。それが発売された瞬間、現代人は至高の娯楽を手にしたのである。
見たことのない世界で、感じたことのない冒険を、スリルを。人々はその世界にいる間だけ、全ての鎖を捨てて自由に羽ばたいていた。
――だが、明晰夢であろうと夢は夢。いつかは覚めるものであり、やがて彼らは現実へと帰っていく。
喪失感を背負いながらも、本来の自分がいるべき世界へと。
しかし、それでいい。
夢は夢で終わらせるのが、最良なのだ。夢をいつまでも引きずり、現実に持ち込むものではない。
現実と夢が混ざれば、夢の意識を現実に持ち込めば……生きるべき本来の世界に、そこで生きている本当の人間に、癒えない傷を残してしまうこともある。
夢の楽しみ方を誤れば、それは悲劇に繋がるのだ。
ゲームも、夢も、いつだって楽しくなくてはならない。それは、悲しいものであってはならない。
それが、飛香Rの信条であった。
◇
――西暦2037年5月。
数年前に発売された初のVRゲーム機「ヘブンダイバー」の登場以来、世間ではVRMMOが娯楽の主流となっていた。
そのヘブンダイバーの開発元であるアメリカのメーカー「アーヴィングコーポレーション」は、その新生ハードに対応する数多くのゲームソフトを発表。時代を変えたVRゲームを代表する一大企業として、その名声を欲しいままにしていた。
――そのアーヴィングコーポレーションが発売するソフトの中でも特に最近人気なのが、ポップな世界観で女性や子供にも好評の「Happy Hope Online」。
愛らしいキャラやオブジェ、見目麗しい景色や自然風景に溢れたゲームであり、その人気ぶりは社会現象にまで発展している。近頃の中高生では、このゲームに触っていない者の方が珍しい。
アーヴィングコーポレーション日本支社の近くにある五野寺学園高校、通称五野高。
その学び舎に通う若者達も、その多くがVRMMOのプレイヤーとなっていた。
◇
「え!? 飛香君、『ハピホプ』やってないんだ!?」
林間学校を間近に控えた、五野高一年Aクラスの教室。昼休みを迎え、仲良くつるんでいる男子三人組の前で、一人の美少女が声を上げていた。
その近くの花瓶に差された花が、窓から吹き込む風で穏やかに
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