紅殻勇者グランタロト
第0話 おとぎ話と罪の始まり
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――2027年。私達が過ごしている今の時代より、少しばかり未来の出来事。
豪華絢爛、その一言に尽きる一室のベッドで、1人の幼い少女が横たわっていた。すでに夜の帳は下りているというのに、彼女は眠りにつくことが出来ないのか……目尻に涙を浮かべ、枕にしがみつき肩を震わせている。
そんな彼女の傍らでは、体格の良い父親が椅子に腰掛け、愛娘の手を握っていた。
「パパ……怖いよ」
「……また悪い夢を見たんだな、優璃。大丈夫だ、パパがついている」
可憐に咲き乱れる、純白の花々で彩られたこの部屋に――幼気な少女の啜り泣く声が、絶えず響いている。手を握る父は、見た目に反した優しげな声色で娘を励ましていた。
だが、少女の不安は拭えない。彼女の涙が止まらない理由は、絶えず脳裏を過る「悪夢」にあった。
「だって……夢の中に行ったら、みんな死んじゃうんだもん。ゆりのお友達、夢の中でどんどんおかしくなって……いっぱいけんかして、ひどいこと言ったりしたりして、最後は……みんな……」
「心配することはない。確かに夢の中ではそうかも知れないが、目が覚めたらみんないつも通りじゃないか。夢は、あくまで夢だ。優璃のお友達は、誰も傷ついてはいない」
「でも! ゆり、知ってるんだよ。まさゆめ、っていうのがあるんでしょ? もしかしたら、いつか本当にみんな死んじゃうかも知れないんだよ!? やだよ、そんなのやだぁ!」
例え今が夢でしかなくとも、それが現実にならない保証はない。そんな不安が鎌首をもたげるたび、彼女はこうして泣き?るようになっていた。
大切な友達が、夢の世界でいがみ合い、傷付け合う。そんな夢を頻繁に見てしまったことが、幼い心を焦燥と恐怖へと駆り立てていたのだ。
「……仕方ないな。眠れないなら、絵本を読んであげよう」
「ぅっ……ぐずっ……」
「きっと、優璃に元気をくれる。素敵なお話が、あるんだ」
そんな愛娘の姿を、痛ましい表情で暫し見つめ――父は傍らの袋から、一冊の絵本を抜き出して来た。今日買ったばかりの、新作である。
今まで読んだことのない本が目に入り、暗く淀み始めていた娘の瞳は、微かな光を取り戻す。
「きっとこのお話を読めば、悪夢なんて怖くなくなるさ。このお話の勇者様が、きっと優璃を助けてくれる」
「勇者、様? 本当?」
「あぁ、本当だとも。この話はな――」
その輝きを、確かなものに変えるため。父は悪夢に苦しむ娘のために買って来た、その絵本を朗読し始める。
それは。
夢の世界に囚われたお姫様を助けに行く、勇敢な少年のおとぎ話だった。
◇
――2035年。私達が暮らしているこの国から、遥か遠く。海を隔てた、異国の地で。
ある少年が……少女の骸を抱いていた。
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