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勇者にならない冒険者の物語 - ドラゴンクエスト10より -
ラーディス王島にて
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ムイ王国の武官の家の出だ」
「ワーオ、お金持ちだったんだ・・・」
「そんなに高い位の家ではないがな」
ウェディの青年の髪をすきながら苦笑する。
ジアーデが目を輝かせてチョウキを見た。
「なんでまた旅に出たにゃ? 武官のお家なら、ほかの家に嫁げば安泰だったにょに」
「5人姉妹の末っ子ではな。いい家に嫁げるわけでもない」
「少なくとも死ぬ目にはあわにゃいよ〜」
「証を建てたかったのだ」
意味が解らない、といった表情でジアーデは固まり、鍋をかき混ぜる手も止まる。
チョウキは伏目がちにウェディの青年の髪をすくのをやめて語った。
「家にいても何かを期待されることもなく、末っ子というだけで何不自由なく暮らすことは出来ていた。だが、私は父上に期待してほしかったのだ。そのために、戦士として武術も学んだ。魔法使いにもなれるように書物も勉強した」
正座の姿勢になり、ジアーデに正面に向き直る。
「だが、ツスクルの学び舎に入学することもさせてもらえず、私はただお人形のように扱われていただけだった。父上も、ついぞ私と面と向かって話をしてくれたことはない」
「見返したかった?」
「そうだ。だから私は、私を慕ってくれる家臣が冒険者の道を示してくれた時に、これこそが我が道だと信じて疑わなかったのだ。・・・結果、洋上で悪魔の襲撃を受けて家臣を失い、私を助けてくれようとした青年にも、このような仕打ちを・・・」
「それは彼に失礼だにゃ」
「なに?」
「ウェディは恋に歌に生きる種族だにゃあ。エルフに、というか異種族に恋をするウェディは珍しいけど、その彼が信じて戦ったのなら、それは意義のある事だにゃ。感謝はしてあげてほしい。だけど、憐れむのはとても失礼だと、ジアーデは思うにゃあ」
「そう・・・か。・・・私は、彼に期待してもよいのだろうか・・・」
(ウェディに恋するエルフも珍しいけどにゃ)
ジアーデは口には出さず、ウェディの青年の横顔に見入るエルフの少女に苦笑した。
「さ、スープができたにゃ。とりあえず腹ごしらえだにゃ」
ジアーデは木のお椀にスープをよそると、チョウキに差し出してきた。
右手で受けて匙をうけとる。
一口すすり、こくんと飲み干した。
「・・・美味い・・・」
「当たり前だにゃあ。あたしは調理ギルドで料理も学んだことがあるくらいだからにゃ!」
もっとも、調理職人を目指したわけじゃないから本格的なのはたいして作れないけど、と付け加える。
自分のお椀にスープをそそいでウェディの青年の方を見る。
「少しは栄養付けさせないといけないんにゃけど。お医者さんじゃにゃいから意識のない人に栄養を付けさせるやり方がわからないにゃ」
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